部屋に戻ると、どうやって察知したのか、扉の前で待機していたらしいアゲリハにがば!と抱き着かれた。暑苦しい巨体をぎゅうぎゅうに押し付けられる。

「おかえりサノトー!」

「おうよ」

「お腹空いたぞ!」

「俺もだ、直ぐに作ってやるから待ってろ」

「はーい」

結局分担できなかった家事(料理以外も恐ろしい結果になりそうだったのでとりあえずやらせていない)をこなすサノトの隣に、アゲリハがひょっこり近づいてきた。上体を屈めてじっとこちらを覗き込んでいる。

暫くして、ふっと顔に触れてきた。大方、先ほど打った所が気になったのだろう。

「サノト、顔の傷はどうした?」

「ああ、これは」

「余計に不細工になっているぞ?」

「おらぁ!!」

「いたい!!」

「わりーわりー、虫が止まってた」

「そうか有難う!」

「イイエー、これは転んで打っただけだ、気にするな、暇ならゴミ出してきてくれ」

「はーい」

アゲリハが頷き、傍に片づけてあったゴミ(此処は袋では無く紙箱に仕舞って捨てる形式、分別無し)の箱を持って部屋を出て行く。

アゲリハが出て行ってから数分後、じりりと呼び出しベルが鳴った。多分、今日もセイゴがやってきたのだろう。

じゃがいも(っぽい緑色の何か)を剥く手を止めて扉に向かい、開けると、案の定、にやにや顔を緩ませたセイゴが立っていた。

「おっじゃまー」と軽く手を振り勝手に中に入る。わが物顔で椅子に座り「ご飯出来た?」と当たり前のように聞いてきた。

止めていた手を再開し、セイゴに背を向けたまま料理を続ける。「お前、最近こっちにばっか食べにくるよな」とぼやけば、きゃはは!と、甲高い声が響いた。

「意外とサノト料理上手いからさー、あと経費散々使って良い物いっぱい食べ過ぎてね、質素なもの食べたくなっちゃったの」

「喧嘩の押し売り止めてくれない?」

「ふはは、いいじゃない、ちゃんと僕の分払ってるんだから、なんなら今日は手間賃分上乗せしてあげようか?」

「どうぞおあがりください」

丁度出来上がった料理を丁寧に置くと、それを目前にしたセイゴが「くるしゅうないぞ!」と手を叩いた。

「ところでサノト、顔どうしたの?更にブサイクになってるけど」

「うらぁ!!」

「痛い!」

今日は避け損ねたらしいセイゴが、殴られた頭を抱えながらぶははと笑いを続けた。それに引き寄せられたように、「なんだ?」と、向こうからアゲリハの声が聞こえてきた。

丁度良いので残り二食も机に並べて椅子に座る。アゲリハも手を洗ってから直ぐに席に座り、誰が合図をするでもなく食事を始めた。

暫くはもくもくと手を動かしていたが、その内、食器を器用に咥えたセイゴが「ねー」とサノトの方に振り向いた。

「サノト、そんなとこ打つとか何やらかしたの?」

「別に、ちょっとびっくりする事があって転んだだけだ、そんな事よりお前等、今日はどうだったんだ?」

「「全然!」」

「………」

出稼ぎに出ている間、動力探しに参戦出来ないサノトに変わって二人がその役目を担っている訳だが、ここまであっさり否定されると些か疑わしさを感じてしまう。

何がって、こいつら二人サボって遊んでるんじゃないかってな。…いっそ疑ってしまいたいところなんだが。

「見繕った場所は悪くなさそうなんだがな」

「15番のシリーズ見つけた時は珍しさで目が飛び出るかと思いましたよ、けど、グランディアはね」

「あのシリーズは本当に数が多いからな…」

「無いよりましじゃないですかー?って、サノト、どうしたの?」

「……探してるんだな、お前等」

「何言ってるんだ?」

「当たり前じゃない」

「………うーん」

突然振ってくる会話がやたらと真剣なので、疑いたくも完全に疑えない。そもそもサノトに判断できるものではない。

…まあ、今は仕方がないのだろう。

もう少し判断出来るようになれたら自分でも少しは事を起こせるだろう。

その為に何事も無駄にしてはいけないなと、今日の疲労を振り返りながら考えた。

32>>
<<
top