陽が真上に昇り切るよりも早く、オギの店は賑わいを見せ始めた。客層は男も女も年齢もバラバラだ。

傘の下でサンドイッチを抱えたオギに皆親しそうに話しかけ、金を払ってはソレを受け取り去っていく。

直ぐに追加を寄越されるので、サノトは必死に覚えたての仕事を繰り返した。幸い作り方が単純なので、品目を3種程扱える。他の物はオギが時折こちらに来て手伝ってくれるので、今の所問題が無かった。

始めの内は傘に集う客の入りや、外を眺めたりもしていたが、その内サンドイッチを作る事しか目に入らなくなっていった。

パンを出して、ソースを塗って、具を挟んで、またパンを…何時の間にか滲んだ額の汗を近くの布巾で拭った時、ぽんと肩を叩かれた。

細長くなっていた集中の糸が急に切れ、身体が一瞬大きく震える。振り向くと、オギが笑顔でこちらを見下ろしていた。

「お疲れ様ですサノト君、これで上がっても大丈夫ですよ」

あと少しで作り終えるサンドイッチと、既に出来上がっている5つのサンドイッチを指差すオギを茫然と見上げる。暫くして漸く意識が平行に戻り、ぶんぶんと首を振った。

もうそんなに時間が経っていたのか。吃驚した。やたらと忙しい飲食店でバイトした時と同じ感覚だ。

とりあえず売り切るまでは待っていて欲しいと言われたので、サノトは最後の一つを作り終えると、調理場の隅に置かれた椅子に腰かけ箱の外をぼんやり眺めた。

疲れた、喉乾いた、けど、たくさん働きましたって気分は何時でも悪く無いものだ。

その内に戻ってきたオギが「今日は有難う御座いましたー」と言って何かを差し出してきた。縦長の袋だ。それを受け取り、「これは何ですか?」と尋ねると、逆に不思議そうな顔をされた。

「え?何って、お給金ですよー」

「…え?もう?」

「そりゃあ、サノト君頑張って働いてくれたわけですから、あげないと」

「………」

善意であげている、という口ぶりでは無かった。という事は、此処は日給制度という事か?

それとも、雇用形態で日給と月給が変わるとか?…なんて、まぁどうでも良いか。給金は貰えるだけで有難い話なのだから。

丁寧に御礼を言ってから給金をしまい込み、来た時と同じ荷物でオギの店を離れた。飲食店なのであわよくば残りを貰えないかな、なんて、少し期待していたけれど、あの捌けっぷりを見ると今後も期待は薄そうだ。残念。

食材は以前買ったものが家にあるので、店に寄らず真っ先にアパートへ向かった。

…しかし、くったくたに疲れた。

のしかかる疲労を首を鳴らして振り払い、大きなため息をついてからバスに乗った。

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