とりあえず、あのサンドイッチに何を入れたかだけを尋ね、サノトは一人オギの元へ向かった。

アパートからふたつ離れた、さんまるご。真っ赤な箱と大きな傘。すっと顔を出した誰かが、サノトの姿を見るなり思い切り手を振った。

「サノトくーん!」

昨日の失態などまるでなかったかのように、オギが笑顔で出迎えてくれた。引き攣った笑いを浮かべながら手を振り返す。

目前にまで来ると、今度は頭を下げた。

「しつこいようですが、昨日は本当にすみませんでした、その…」

「うん、じゃあ、その分今日はしっかり働いてください」

「…はい」

それまで多少なりとも緊張していたのだが、オギの返し方にほっと、安堵を覚えた。

受け止め方が柔らかい上に先を繋いでいる。この人、本当に良い人なんだな。

「ところでアゲリハさんは?」

「…本人の希望で、辞めさせてくださいとの事です」

「えー?」

嘘です。自分の希望です。あと、無理矢理置いてきました。

「た、体調が昨日から急に悪くなったみたいで、飲食店で体調不良の奴が働いてもしょうがないので、とも言ってました」

嘘です。アイツが来ると体調が悪くなりそうなのは俺です。あと、あいつが此処で働いてもしょうがないだけです。

「そうですかー、そういう理由なら仕方ありませんね、サノト君だけでも残ってくれて良かったです」

「ははは…」

サノトの苦しい言い訳もオギは素直に笑って受け止めてくれた。そこから、「そういえば!」と、話題をくるっと変えて昨日のサンドイッチの作り方をせがまれる。

一応覚えた(本人もうろ覚えだったので本当に一応)具材を伝えると、驚いたり、笑ったりしながらオギが相槌を打った。

「辛子にヨーグルト!斬新ですね~!」

「俺もそう思います…ハムにジャムは無いと思いますけど…」

「…うんよし!このサンドイッチの良い名前が思いつきました!」

「何ですか?」

「青天の霹靂!」

「………」

確かに、それ以上似合う名前はねぇな。と思った瞬間「ぶは!!」と噴き出してしまった。

ひぃひぃ腹を抱えていると、きょとんとしたオギが、やがてふわりとはにかんだ。

「笑いました、サノト君」

「…はい?」

「良かったよかった、さっきまで難しい顔をしてたから、笑ってくれてよかった」

ふふふ、と笑うオギに眼を丸くさせた後、人差し指で自分の頬をかいた。照れくさいような、有難いような、変な気分だ。

「さぁ、サノト君」

頬につけていた手とは逆の方の手を急にオギに引かれ、赤い箱の中に誘われる。吃驚している内に、はい、と何かを手渡された。

「それじゃあ、今日も宜しくお願いいたします!」

手渡された何か――手袋をぎゅっと掴みながら、ふっと口角を緩めて「お願い致します」と頷いた。

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