頭の中が真っ赤に染まり上がっていたが、背後から「あの…?」と小さく声を掛けられた瞬間、ひゅっと我に返った。

伺うような声色はオギのものだ。振り返って目を見開く。…今自分は、何をした?

「す、みませんでした!!」

大声をひとつ叫んでから。荷物とアゲリハをひっ掴んでその場を飛び出した。向こうから丁度やってきたバスに雪崩れ込んで荒く息をする。泣きたい気分だった。

客のまばらな車内で立ち尽くしていると、座らない内にバスが目的地を告げた。反射行動でバスを降りて、生活習慣の癖でエレベーターに乗り込み、無意識で鍵を開ける。

中に入った瞬間、サノトは荷物と共に崩れ落ちた。結構派手な音が響いたが、誰かの迷惑を考える余裕は無かった。

「最悪だ…」

床にへばって、ぼそりと呟いたサノトの旋毛に何かが触れた。

ふっと目線を上げると、膝を折ったアゲリハが、楽しそうな顔でサノトの頭を弄っていた。脊髄反射でその膝に拳を打ちかます。がつん!と、思い切りの良い音がした。

「いたぃいいいいい!」

「俺もいてぇえええ!」

骨と骨同士が思い切りぶつかった後、ゴロゴロと二人で転げまわった。

こうなると分かっていても、やらずにはいられなかった、畜生!

「何々どうしたのー?」

音を聞きつけたらしいセイゴが鍵を閉め忘れた扉から入ってきた。涙目で振り返ると、首を傾げたセイゴに再び、何々?と尋ねられる。

「………そ、れが」

この現象がいかにして起こったか、その文句を言える機会が発生した。

それが無性に嬉しくて、どんな反応をされるか大体予測できた筈なのに、ぺろ、っと話してしまった。そして。

「初日トラブルおめでとー!ぎゃはははは!!」

話終わる前に大爆笑された。即座に足を出したがかわされる。

「ちくしょぉおなんとか出来そうな仕事折角見つけたのにぃ…」

現実だろうが異世界だろうが、自分の手に負えそうな仕事を見つけるのは大事な事だというのに、事もあろうか自分で蹴り飛ばしてしまった。

いや、半分はアイツの所為だけど。いや、半分以上アイツの所為だけど。

「だから僕言ったじゃない?アゲリハ様も働かせるの?って、どっからどうみてもトラブル起こすに決まってるじゃない」

「そこまで頭が働かなかった俺を見かねてもっと必死に止めてくれない?」

「やだよ、死ぬほど面白そうだったもん、予想通りだったわーあははははは!!」

「死ね!」

「しなないでか!」

飛び出た蹴りを再びかわされた。ちくしょう!

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