カウンターの隅から、オギが指でぴっと半透明の紙を取り出した。それを台の上にひくと、後ろからパンを二枚取り出し、一枚は紙に、もう一枚は隣に置く。

カウンターの上に並ぶカラフルな円筒のうち一つを掴むと、紙上にあるパンと隣に置いたパンの上部に中身を塗りたくった。

また後ろを向いて、ハムや、調理済みの色野菜を取り出し、いくつかをパンの上に乗せると、隣のパンをさかさに乗せて、両手で上からぎゅう!と何度も押さえ込む。

最後に、下にひいていた紙の余りを左右から掴んでパンを包み、もう一度ぎゅうと両手で押さえた。

それを背後にある棚に重しをしてから入れると「完了です!」と一声上げた。

「これが基本的な作業です、あとは種類によって中身を変えて、半分に切って袋に詰めるだけです、今日の分はもう作り終えてありますから、明日の分を此処で作ってもらえませんか?今使った材料の物だけで大丈夫です、もし余裕があったら洗い物もお願いします」

「分かりました、何とか出来そうな気がします」

「良かった!それじゃあ早速お願いしますね、手袋はそっちに置いてあるものを使って下さい、僕は販売の方に回ってますのでー!」

言うや否や、オギは先ほどの棚から早速パンを幾つか取り出し、赤い箱から飛び出して隣の大傘の下に立った。多分あそこが売り場なのだろう。

箱の中から覗き見ると、赤い傘の前には既に何人かが待機していた。オギが親しげに対応しながら、ひとりひとりにパンを手売りしているのも見える。

「なかなか繁盛しているじゃないか」

「そうだなー、じゃあやるか」

「はーい!」

早速、手を洗って、手袋をつけて、から、覚えたての仕事に手を付けた。

ますは台に紙を引いて、後ろからパンを二枚取り出し、紙に置いて、ソースを塗り、具材を並べて、挟んで、押して、紙の余りでくるっと包んで、また押して。

さて完成!初めてにしては上出来だ!と、パンから手を離した瞬間隣に居たアゲリハも手を上げた。どうやら同時に終わったらしい。

どれどれと、振り返った瞬間―――びくりと肩が震えた。

「……………え、お前のパン何で段差出来てんの?何で盛り盛りなの?」

「棚にあったから拝借してみた!」

「ちょっとまって?色もおかしくない?ソースの色別じゃない?」

「隣にあったから拝借してみた!」

「ねぇちょっと、あきらかにこれ別物だよね?」

「そうか?ちゃんとサノトのやり方を見てたぞ?具材は楽しそうなのを選んだが、パンに挟まっている事自体は一緒だろう?」

「待て、お前オギさんの作り方ちゃんと見てたか?」

「見てなかった!」

「………」

殴りたい。けど駄目です、初日でトラブルとか最悪ですから。

とりあえず、もう二枚紙を取り出し、アゲリハ作の盛り過ぎ惣菜パンをそっと包む(一枚じゃ足りなかった)と、後ろの棚に、そっと押し込んでおいた。後で絶対ばれるけど、気休めに。

パンはもういい、と呟きアゲリハを水場に立たせた。不思議そうな顔をしているアゲリハに「お前はそこで洗ってろ」と指示する。

パンをこれ以上触らせると何をされるか分からない。此処は危険の少なそうな洗い場で大人しくして貰おう。

特に文句を言う事なく、これはこれで楽しそうだ!と言ってアゲリハは洗い物を始めた。

やれやれと肩を慣らし、サノトも再び作業に戻る、またパンを取り出して、ソースを塗り、具材を並べて、挟んで、押して、紙の余りでくるっと包んで、また押して。

またもや完成、今度も良い出来だ。さて、棚に仕舞おう、とした時、何かがサノトに近づいてきた。台の端からもこもこと這い寄ってきたそれは、白くてふわふわなもやだった。

なんだろう、と、目を配った瞬間、今一度肩が震えた。目配せしたのは隣の水場。そこから、何故か、大量の泡が湧き上がっていたのだ。

その中心にはアゲリハの両手が突っ込まれている。その顔は、とてもとても、楽しげだ。

…我慢したい。けど駄目だ。こいつ最悪だ。

「―――洗い物ひとつできねーのかこのクソカラス!!」

渾身の力で蹴り飛ばす。不意を突かれたアゲリハが、放物線を描きながら綺麗に倒れ込んだ。色んな物を巻き込んで。

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