「今景気が安定してるから色んな仕事出てるよ、電話して面接して、大丈夫だったらそのまま雇ってくれるよ、電話は…部屋の備え付けは無いみたいだけど、アパートなら大抵入口に共有電話あるからソレ使えばいいし」

おお!金を稼ぐ方法も雇用先を探す方法も大体同じか!助かった!と、勢い込んで頁を見た瞬間、が!と目を見開く。

「………そうだった」

「どうしたの?」

「……読めないんだった」

そうだ。数字は同じでも文字が別だったんだった。最近あまりにも読めなさ過ぎて忘れてた。

あれ?今更だけど、文字読めないとか仕事的にどうなの?あれもしかして詰んだ?

顔を真っ白にさせたサノトを見かねたのか、セイゴが「いやまあ」と宥め始めてくれた。

「事務とか選ばなければいけるんじゃない?この荷運びとか、惣菜パンの製造販売とかも」

「いけるかなぁ…」

「話通じるなら接客で十分いけるんじゃない?欲しいの指差してください、とか上手く言えば良いんだし、大丈夫でしょ」

「ん?…そういえば」

「どうしたの?」

「ああ、いや、俺、会話は出来るのに文字は読めないんだなって」

「……………………………………………………なにかされてんな」

「え?ごめん良く聞こえなかった」

「ううん、なんでもない、まぁ語感みたいなものが似てたんじゃない?目と耳じゃ別物だろうし」

「そんなもんか、…うーん、どうしようかな」

一度席を立って、背後のベットにまで近づく。

デカい図体を広げるぼんくらにがんがん蹴りを入れると、ぱちりと開いた大きな目に「お前はどう思う?」と問いかけた。

天井を向きながら「なにが?」と傾げるその首に「仕事の事だよ」と説明する。

「なんだ?決まったのか?」

「決まってないけど決めたいっていうか…、販売がいいんじゃねぇの?って話になってるんだけど」

「ふうん?いいんじゃないか?」

「おいおい他人事にするなよ、お前の意見も考えないと、仕事って向き不向きがあるから…」

合わなかったら大変だろ?と、言い切る前に背後から、結構大きな声で「え?」と疑問符を投げられた。

振り返ると、セイゴがぱちくり瞬きしながら、じっとサノトを凝視していた。

「アゲリハ様も働かせるの?」

「え?そりゃ、二人で働いた方が良いだろ?」

男二人の生活を此処10日で遂げてみたが、一人分の家事苦労と然程変わらなかった。ならば一方が部屋に収まる事もあるまい。

「働いた事無いなら余計やってみろよ、結構勉強になるし、お前ちょっと礼儀の部分なってなさすぎだし、まあ好みだってあるから、別に一緒の仕事じゃなくても良いけど…うわっと!」

「働いてみたい!」

「え?」

「働いてみたい!サノトと一緒に!」

「そ、そうか?やる気になってくれたんなら良いけど…」

「うん!」

てっきり「めんどうだ」とかごねられると思いきや、思い切り肯定されて気が抜けた。本人がやる気ならまぁ、話が早くて済むから良いんだけど。

一人胸を撫で下ろすサノトの後ろで、サノトに聞こえない位小さな忍び笑いが漏れた。

「…まあ、面白そうだからいっか」と、本人にしか聞こえない呟きが、ふうっと床に落ちて消えた。

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