―――此処での生活が始まってから早10日目。その間、サノトの心情は日々焦燥との戦いだった。

アゲリハが所持していた財布、この国の金銭(黒い紙幣と大きさの違う黒い硬貨が数枚、ひとつをコウと数えるらしい)を眺めながらがっつりとため息をつく。

初日はもっと膨れた財布だったのだが、10日でこのありさまだ。幾度財布を振った所でそれが自発的に増える事は無い。

つまり、金が無くなったのだ。無論、生活費の話。

命の危機から早々に金銭感覚を覚え、奴から財布を奪い、自分なりに頑張ってきたつもりだったが、どれだけ節約出来たとしても無いものは増やせない。

このまま行くと路頭に迷う羽目になるだろう。最悪飢えてしまう。理不尽すぎて吐きそうだ畜生が!!!

「………はー」

まさか、本当にまさか、こんな目に合わされるとは思いもしなかった。

しかし文句も言っていられない。このままでは確実に餓死決定なのだ。…かくなる上は。





「働こう」

後2、3回分しか無い茶を入れながら真剣に提案した。

提案された当人は、側面から石でも食らったような間抜けさで「はたらく?」と内容を反復していた。

「此処で働くのってどうすればいいんだ?」

「うん?まあ何処かに頼めば働かせてくれるんじゃないか?」

「曖昧過ぎてわかんないんだけど」

「えーだって、私は今まで働いたことなど無いからな」

「嘘つけ、金も無いのに生活が出来るか」

「え?だって何時も誰かが私にくれ…いだだだだだだ!!!」

「てめーのヒモ自慢は良く分かった、おいセイゴ」

同席していたセイゴに振り返る。と、それまで大人しく茶を飲んでいた口が、ぶは!!と空砲を吐き出した。

上品な顔立ちが下品に歪み、げらげら、ひぃひぃ、笑っては腹を抱える。

「うける!サノトマジうける!!ねぇ養うの?アゲリハ様養っちゃうの!?」

「やかましい」

青筋を立て、その頬を抓ろうとしたら華麗に避けられた。畜生。

「そーだねぇ、普通に求人誌とか見て探せば?」

一頻り笑い終えた後、セイゴが一転して真面目な口調になった。やっと出現した可能性にずい、と身体が前倒しになる。

「その辺に売ってるし、何なら今すぐ買ってきてあげようか?」

「良いのか!?」

「面白かったから奢ってあげるよ」

「今物凄く殴りたくなったけど我慢するわ!」

「よしよし!良い子だねサノト!」

腹の立つ締め括りをされた後、セイゴが直ぐに席を立った。

「いってくるねー」と言ってさっさと部屋を退出してしまう。本当に買ってきてくれるらしい。

その内暇になったらしいアゲリハが近くのソファに転がり始めた。それから数分後、すうすうと気持ちの良さそうな寝息を立て始める。

その呑気な姿を眺めている内にセイゴが部屋に戻ってきた。手には何かの冊子を持っている。多分あれが求人誌なのだろう。

「はいこれ」と手渡すついでに、目ぼしい頁を開いてくれる。

21>>
<<
top