手続きや荷物の運搬があるからと言って、その後セイゴは紙を持って部屋を出て行った。
その最中、一度だけ振り返り、アゲリハに「今日はどちらへ?」と行先を尋ねる。
「私たちは先にあちらに向かう、三番街駅付近の探索をするかな…、支度は今日中に済むか?」
「多分大丈夫ですよ、じゃあなるべく早目にご連絡差し上げますね」
「宜しく頼む」
セイゴが去るのを見届けると、アゲリハも席を立ち、サノトに振り返って「行くぞ」と告げた。サノトも立ち上がって、ふと、窓に向かう。
見下ろすと、建物を中心にぐるりと線路が幾つも並んでいた。行ききする列車がまるで此処に吸い込まれ、そして吐き出されているようだ。
意識していなかったが、この建物はとても高いのかもしれない。何となく興味が湧いて、外に出たら振り返ってみようかなと思う。
アゲリハと部屋を出て、再びエレベーターに乗り込みあの大きな広間に向かった。
アゲリハが羽根の中からくしゃくしゃになった紙切れを取り出し、何かの機械の穴に放り込んだ。
機械がばくっとそれを食べた後、ぺっとなにかを吐き出した。
振り返ったアゲリハがそれをサノトに差し出してくる。受け取ったのは掌大の、ぱりっとした厚紙だった。
随分大きいけれど、これ、…もしかして切符か?
「切符券だ」
胸中に返事を返されびくっとしたが、アゲリハは気にせず歩き出した。
改札口らしき場所で機械の穴にまたそれを放り込み、中に進んでいく。
サノトも模倣して進み、暫くして見えた階段を登って、から、漸く立ち止まった。
丁度停留所に列車が入り込んでいて、人が降りたり上がったりしていた。
サノトとアゲリハも人並みに乗って乗車し、お見合いの形になった席に並んで座った。
数分もしない内に、じりじりと喧しい音を立て、車掌らしき男が扉を閉め始めた。
全ての扉が閉まった数秒後、がたがた音を立てて列車が動いた、慣れ親しんだ動きだ。
これだけ身近な既視感を感じていると、此処が別の世界だという事がまた信じられなくなってくる。
けれど、ふっと窓から振り返った景色を見た時、ああ、と思い直した。
遠ざかっていく景色に、見上げる程大きな建物が見える。中心では大きな時計が、当たり前のように、さかさまに動いていた。
「………ははは、スゲー」
冷や汗が出る。
俺は今、とんでも無い所にいるのだろう、そう実感できる光景であった。
降りた駅は乗車駅よりも随分小さく、人もそう多くは無かった。入った時と同じように切符を放り込んで外に出る。
「おおー」
駅から出て直ぐの景観に感嘆の声を上げた。
駅から出たのに、直ぐ近くに違う線路を見つけた。小型の線路で、建物と建物の間に延々と敷かれている。
大きな線路は街を囲うように張り巡らされ、その順路を邪魔しない為か、建物が内側に密集し、横並びになっている。
道は車がみっつかよっつ通れそうな幅のものと、もっと狭いものがある。その上には小型の線路が敷かれた。
「この国って線路ばっかりだな」
隣で伸びをしていたアゲリハに感想を告げると、「ああ」とアゲリハが頷いた。
「トーイガノーツの交通手段の主は列車だからな、それ以外は番街ごとに走るバスだ、どちらも何時でも運行している」
「一日中か?」
「そう、駅とバス停は眠らない、覚えておけサノト」
「へぇ…」
いまいちピンとこない、不思議な例え方だと思った。少なくとも、サノトには眠らない物など思いつかない。
「他には自動二輪もあるが、…万人は持たないな」
「自動二輪?」
「うん、元々は自転車というものがあってな、それに動力をつけた個人の乗り物だ、もっとも、自転車も自動二輪も歩道やバスの前を走ると危ないから然程普及されなかったな」
自転車に動力…バイクの事かな。
アゲリハが歩き出したので隣に着いて歩いた。
その内、お腹が空いたと言い始めたアゲリハが近くの店先に顔をのぞかせ、何かを持って戻ってきた。
銀色の紙に包まれた灰色と緑色の何かだ。匂いからして恐らく食べ物。
一つ貰ったので食べてみると、刺激的な辛味を感じた、意外と美味しい。
もぐもぐと咀嚼しながら直ぐ近くの線路を見つめた。
右から、左から、その向こうから、もう少し遠くから、色の違う列車が次々に走り去っていく、結構面白い光景だ。
16>>
<<
top