「それが無いと帰れないからだろ?」
「そうだ、では何故それが無いと帰れないんだ?」
「それが無いとあの列車が動かないんだろ?」
「そうだ、では何故あの列車は動かなくなったんだ?」
「それは―――――」
「それは?」
「――――動かなくなった永久動力が、あれ、もしかして手元にあるの?」
「その通りだ、緊急列車は使用する度、人の人生が富に包まれる程の特別な動力を使う、だから永久動力が必要になるんだ、つまり、緊急列車と空の動力がこちらにある以上、永久動力の実物と、型番の調査は容易だという事だ、分かるか?」
「そうか!見本があれば確かに確実だな!…あれ?でもさ、それってそもそも先に手に入ってる人にも型番分かってるんじゃないのか?そんなに良い物ならもっと欲しいってなるよな?」
「そうだなサノト、けれど、一度手にした偶然を二度目に必然として見るのは難しいんだよ、…欲が絡むとはそういう事だ」
「どういうことだ?」
「何でも無い、兎に角今でも度々発見されるという事は乱獲はされていないという事だ、探す余地はある、とりあえずこれが例の動力なんだが…」
アゲリハが羽根の中に手を入れたのと同時に、向こう側の扉が開いた。どうやらセイゴが帰ってきたらしい。
振り向くと、紙束を抱えたセイゴが、うわー、とか、おもいー、とか言いながらこちらに向かってきた。
「おらよ!」
顔に似合わぬ男らしい掛け声と共に、セイゴが持っていた紙束が机の上を滑った。
紙束の山の上に顔を置いたセイゴが、若干疲れた顔で「持ってきましたよー」と小さく呻く。
「ご苦労」
「これ、なんだ?」
「永久動力の手がかりを探す為にな、探究に利便が良い街の部屋を探して貰ったんだ、サノト、一緒に住む部屋だぞ?」
「僕も仕事でついていくから良い部屋選んでね?」
「じゃ、選ぶのを手伝ってくれ」
「…はーい」
子供のような笑みを浮かべながら、アゲリハが紙束を一枚一枚剥がしていく。
ある時は捨て、ある時は手に抱えたまま黙り込み、ある時はきらりと目を光らせながら「これなんかどうだ!」とサノトに見せてくる。
「うわ…っ」
言われるまま見た紙の一枚に引いてしまった。なんだこの部屋数。3LDKっていうより3階LDK?ぶち抜いてない?
「いいなこの部屋、動物も飼えるぞ?」
「アゲリハ様、こっちのベランダ凄いよ?」
「どれどれ?」
「いらんいらん」
預かった紙を返却し、サノトは床に落ちていた紙を何枚か拾って適当に見比べた。
丁度、自分の部屋と同じくらいの部屋を見つけたので、ソレをアゲリハに突きつける。
「これくらいで充分だろ」
「えー、折角サノトと暮らすんだからもっとこう、広くて優雅で…」
「なんだお前、俺の部屋に文句でもあったのか?」
これが狭くて嫌だと抜かすのならサノトの部屋だって相当に狭かった筈だ。文句なぞ今更では無いか。
「………………なかった」
「じゃあ別に良いだろ」
「うん、そうだな」
「えー、僕どうせなら広い方が良かった」
「一人で広いとこ住んでもしょうもないだろ、それより遊びにこいよ、そっちの方が楽しいって」
「…ふうん?そうかな、じゃあ行こうかな、へへー、そう言われると楽しそうだね?」
言葉通り、楽しそうに頷いたセイゴが「じゃあ僕は隣の此処にしようかな」と、紙の上に小さな指を滑らせた。
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