「…それはさておき!セイゴ!」
クソ甘くなった茶を一気に飲み干しセイゴに向かう。愛らしい顔の男はにやにやと頬杖を突きながら「なあに?」と女のような声で応答した。
「ちょっと相談があるんだけど」
「相談?部屋の事?衣食の事?いいよ何でも聞いてよ」
「い、いや、そうじゃなくてだな」
「サノトと帰る事にした」
口籠ったサノトに代わり、アゲリハが手短に答えた。瞬間、セイゴがふっと目を開き「はい?」と声を上げる。
「何処に?」
「サノトの国へ」
「え?来たばっかじゃないですか」
「それでも帰る」
「え?無理でしょ?」
「帰る」
「だから無理だって」
「帰る」
「無理む」
「ちょっと待て!無理なのか!?」
二人の間で段々と食い違っていく会話に思わず滑り込んでしまう。
何故食い違うのだ、しかも物凄く肝心な場所を!
「何?僕、帰るのは無理だって言ったじゃない」
「いやでも、アゲリハは説得できたし!」
「別にアゲリハ様は関係ないよ」
「え!?さっき帰るのにアゲリハがどうのって言ってたじゃないか!?」
「え?…ああ、そうか、誤解を招く言い方したね、ごめん、きちんと言うよ」
「なに」
「サノト、君は帰れないよ、アゲリハ様が――――動力を使い切っちゃったからね」
「………どうりょく?」
「君とアゲリハ様が乗ってきた列車、緊急列車って言うんだけどそれって特別なもので、その動力も特別なんだよ、その動力ってのがね、アゲリハ様が此処を飛んでから、帰ってくる分までしかなかったんだよ」
「な」
「さっき呼ばれた時に聞かされたんだけど、もう、うんともすんとも動かないんだって、まぁ、よくもこんなに綺麗に使い切ったなって、上の人が呆れてたよ」
「ほ、他のは…?」
「あれ切りだってぇ」
「………」
「動力が無ければいくら列車があっても、アゲリハ様がうんと言っても動かないよ、僕が言う無理ってのは、もう物理的な意味で帰る手段が無いって事、分かったかな?」
「………」
「無理じゃないだろ」
真っ青になっていたサノトの隣で、それまで黙っていたアゲリハが唐突に口を開き、ぴ!とセイゴに指差した。
驚くセイゴを綺麗に無視して、アゲリハが自信に満ちた表情で告げる。
「お前の言い分などとっくに分かっている、だから私は他の永久動力を探すぞ」
「――――それは」
「サノト、大丈夫だ、帰れるぞ」
「ほ…ほんとか?」
「ああ、唯すまない、さっきセイゴが言った通り少し複雑な事情があってな、今すぐはいとは帰れない、先に説明しなくてすまなかったな、いらぬ心配をさせた」
「お、おう」
「必ず何とかしてやるから、信じてくれ」
「…まぁ、絶対に帰れないよりマシなら…」
「よし!」
「………」
まさか助言を求めた相手に切り捨てられ、あまつさえ、砂粒程も頼りにしてなかった相手に拾われるとは思わなかった。
相手が相手だ、物凄く不安は有る。…が、今は藁にもすがりたい気分でもある。此処はアゲリハの意見に懸けてみよう。…かな。
「というわけで三番街へ行く、セイゴ、至急三番街もしくは付近の空いてる部屋をいくつか寄越してくれ」
「三番街?…ああ、廃棄動力ね、けどさアゲリハ様」
「ん?」
「どういうおつもり?」
「なにが?」
「……ふうん、そう、じゃあご希望通り空き部屋見繕って持ってきますね」
「宜しく頼むぞ」
「りょーかいですよ、てことは僕も出張か、三番街は良いお店が多いから楽しみだなー」
「そうだな、たくさん満喫すると良いぞ?」
「やったねー!ま、動力探すってんなら僕もそこそこ手伝いますよ?なにせあんまりする事無いんで」
それじゃ、と言ってセイゴが立ちあがり、扉を開けて退出していった。
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