「なあ、お前さ、空飛ぶ列車って知ってる?」

「え?行き成りなに…ああ!今皆騒いでる奴?何だお兄さんも気になってんの?」

「さ、騒いでる?」

イエスともノーとも言えない答えに瞠目するが、男はサノトの反応を違う風に捉え「やっぱ驚くよなー」と話続けた。

「この近くで列車が空を飛んだって奴、俺も見たんだよね!何かの見間違いかと思ってたんだけど、他にも見たって奴多くてさ!さっき報道にも…」

「ちょ、ちょっと待って?」

「ん?どした?」

「…列車ってさ、普通飛ぶか?」

「あはは!飛ぶわけないだろ!」

「………」

そうか、飛ばないのか。

信じがたいというのは百歩譲って、この国の主な交通手段は空を飛ぶ列車で、あわよくばそれに乗って帰れればいいやとか少し思ってたけど。

そっかー!飛ばないのか!じゃあ自力で帰るの難しそうだな!!

ていうか今の話の元って俺が乗ってきた奴じゃねぇの!?噂になって騒がれる位奇天烈なの!?この国でも!?

じゃあなんだ!やっぱり元凶に頼らないと手段が無いって事かよ!!

「え?何急に落ち込んでるの?あ!そうか見られなくて拗ねてたのか!ごめんごめん」

「違う…」

「違うんだ、じゃあ何?」

「悪い、ほっといてくれ、今葛藤中なんだ…」

「えー?何?今度は何?」

「お願いだほっといてくれ…」

「だからさっきから言ってるじゃん、言えばスッキリ…」

「するような状況じゃないんだよ!!」

「ふーん?本題?」

「………」

「ねぇねぇお兄さん、ほんと何があったの?さっきからちょっと尋常じゃなくなってきてるよ?」

どうしても、この男はサノトから話のネタを引きずり出したいらしい。

言ってもどうにもならないのに、言わなきゃ離してくれなさそうな雰囲気にうんざりする。

一旦間を置いてから、ああもういいや、どうにでもなれと投げやりな息をつく。

こんな理不尽で訳が分からなくて、馬鹿みたいな話、聞きたきゃ聞けば良いんだ。

「―――誘拐されたんだよ!」

「わぉ、何それ凄いね、セイゴが君を誘拐したの?」

「ちがう…」

「上司の方か、ふうん、誘拐ねぇ、全然そんな風には見えないんだけど」

「俺のこの苦悩が見えないのか…!」

「俺が言ってんの状況の話だよ、だって拘束されてる訳でも軟禁されてる訳でも無いんだし、ほら、セイゴも今いないんだし、逃げるなら今でしょ?帰れば?」

「無理だ…」

「何で?帰り賃無いの?貸してあげようか?」

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