「よお、セイゴ」

振り返ると、エプロンに似た服を着た男がはにかみながらこちらを見下ろしていた。男を見上げるサノトの隣で「おつかれー」と美少女が声を上げる。

「うんおつかれー、セイゴ仕事は?」

「仕事中なの」

「そうなん?じゃあこいつが例の上司の?」

「そうそう、趣味変わってるでしょ?」

内容が良く読み取れなけど、何となく悪口を言われている気がするのは気のせいか?

眉間に皺を寄せ始めたサノトに気付いたのか、男がぱっと手を上げ、ごめんごめんと言って再び何かを差し出してきた。

受け取ったのは、古びた深緑の厚紙だった。表面には、何やら記号とイラストらしきものが描かれている。

これはもしやこの国の文字なのか。しかし、サノトの目ではひとつとして読み取れなかった

分からないなりにじ、っと厚紙を見ていたが、その内すっと美少女に奪われた。その口が「珈琲ちょうだい」と言った所で漸く紙の使い道を理解する。

「お砂糖は10個入れてね」

「おまえ…またそんなに入れる気かよ、歯が溶けてもしらねーからな」

「いいのいいの、間隔の狭いお茶でごめんね、サノトも珈琲で良い?…おーい?」

「…同じの、砂糖無しで」

「はいはーい」

「さて」

頬杖をついた美少女が頬に皺を作ったままサノトに愛らしい顔を向けてきた。にやにやと厭味な笑顔つきで。

「連れまわしてごめんね、でも落ち着いたっぽいかな?」

「…おかげさまで」

「そっか、じゃあ改めまして、色々聞いてよ、さっきも言ったけどそれも込みで僕呼ばれてるんだから」

聞け、とは言うが。

「何を聞いたら良いか分からないんだけど…」

がっつり溜息をつきながら言うと、美少女が「あーそっか」と大して驚いた風も無く呟いた。

「じゃあ僕から必要そうな事伝えておくよ、疑問が出たら言ってね?」

異論を挟む隙間も無い。大人しく頷いた。

「とりあえず君、蝗の方から正式にアゲリハ様の婚約者って認められたから、僕はアゲリハ様の護衛みたいな物でね、君もついでに見る事になったから、なかよくしてねー」

「いなごってなに?虫?」

「ちがうよ、えっと、中央集権って言えば良いのか金貸しって言えば良いのか、うーん、分かりにくいか、なんていったらいいかなぁ…あ、そうそう、トーイガ、つまりこの国のね、エライ人が集まるところかな?此処も一応蝗管轄の建物だから」

えーと、つまり此処はお城みたいなものか?辺りを見渡す感じそうとは見えないけど。

「つまり、そのお偉いさん方が俺をアゲリハの…アレ待て、婚約者って何だ」

「アゲリハ様はあんなのでも一応、やんごとなきお方だからね、婚約者様にも充分な注意を払うって事になって…」

「待て待て待て違う、俺が婚約者ってどういう事だ」

「その為に連れてこられたんでしょ?」

「ちげぇよ!!」

「ははは、強制なんだ、こんな事態は異例中の異例じゃない?流石異邦人とアゲリハ様だね」

やっぱり驚いた風も無く美少女がからから笑う。そろそろどついてやろうかと真面目に思った。

「とにかく君、アゲリハ様の婚約者って事で異世界から連れてこられて、蝗っていうお偉いさんに保護される対象になったから、以上、他に質問は?」

「俺を家に返せ!!」

「ははは、無理」

「かえ」

「れないよ、サノト、だってアゲリハ様が―――」

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