「ぎ」
ぎゃぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!
「お前のんびりケーキなんかくってんじゃねぇ!!」
「欲しいのか?」
「ちげぇぇよ!話聞いてたのかお前!」
「聞いてなかった」
「えぇぇぇえ!?」
駄目だ。こいつは話が通じない。いや、通じてたらこんな事になってないか。
藁にも縋る思いで美少女の肩を掴んだ。「きゃ」と可愛らしい声を上げる美少女に「頼む」と涙目で懇願する。
「か、帰してくれ!家に!」
「えー?僕に言われても?」
「頼む!帰してくれぇ!」
こんな突飛な話はお断りだ。帰って寝たい。ゲームしたい。そうだ、こんな話はゲームでするくらいが丁度良いのだ。
「帰す訳無いだろう?」
「お前に、いってねぇよ」
「いいや?私とお前の問題だ、他の誰でも無い、私に応える義務がある、帰さないからな、サノト!」
語尾にハートがつきそうなほど、軽く言われた台詞にぶち!と頭が切れた。席を立ってアゲリハの隣に向かい、思い切り、その顔をグーで殴る。
がん!と、かなり良い音がした。事の成り行きを笑って見ていた美少女も、流石に唯事ではない様子を感じ取ったらしく、慌てて席を立った。
それを綺麗に無視して、相手の首を絞める勢いで掴んだ。
「み、みっか、…っ」
「さ、サノト?」
「人の貴重な休日三日も潰した挙句に散々世話させて迷惑もかぶせておいて、そのセリフはなんだ、この結果はなんだ、おい」
このエキセントリックなご褒美はなんだ、わらえねぇ。
そうだ、三日前。今思えばその時から随分ファンタジーであった、何がファンタジーって、こいつの存在と迷惑っぷりが。
くっつけるとファンタジー迷惑ってか、ははははは。
笑えねぇから!!
「有難うと言われる筋合いはあってもな、これ以上お前のファンタジーに突き落とされる謂れはねぇぞおぃいいいい!!」
「君!ちょ!落ち着いて!」
アゲリハの色んな部分を殴り、蹴り、挙句の果てには本気で首まで締め始めたサノトだったが、途中で強制的に止められた。
顔に似合わず剛力の美少女に背後から拘束され、ずるずるとその場を退出させられる。
殴り足りなかったので「離せ!」と叫んだが、力強い美少女は「埒が明かないから借りますよー!」と言ってサノトを連れ去ってしまった。
当のアゲリハといえば、首を絞めた辺りから大人しくなったいたので、聞こえているかどうかは定かでは無かった。
「くっそ離せぇええ!!アイツぶっ殺してやる!!」
「落ち着いて!ね!そうだ人の多いところ行こう!ね!」
部屋を出た美少女は、その剛力でサノトを引きずり長い廊下を進むと、曲がった所で一度止まった。
急に止まったのでバランスを崩し、肩から落ちそうになったが、それを上手くキャッチした美少女に再び身体を引きずられた。
カーン、と行き成り頭上から音がして、目の前の扉が開く。驚く間もなく、荷物を放り投げるようにして中に入れられた。思い切り壁に激突して、ぎゃあと唸る。
「おもかったぁ」
こきこき肩を鳴らした後、きゃっと笑って美少女が扉を閉めた。
このアマ重いからといって壁にブン投げるとはいい度胸してんな、と怒鳴ろうとしたが、急な浮遊感に襲われて舌を噛んだ。あまりの痛みに今度は呻きすら出なかった。
サノトが舌の痛みを耐えている間、部屋がどんどんと揺れ始める。カンカンと何度も音を立ててから、ふと振動が止まった。
「着いたよー」
扉が開いた時、サノトは漸く痛みを越えて口を開けた。
「これって…」
「あれ?君の国は昇降機が無いのかな?」
しょうこう…ああ、エレベーターか、これ。
「あるよ、あるある、形ちょっと違うけど他はそっくり」
「じゃあ吃驚してたわけじゃないんだ、舌を噛み損じたね」
うるせぇ。
「さーこっちこっち」
美少女が再び掴み掛かってこようとしたので、咄嗟に避けて「もう良い」と断った。
サノトが冷静になったのを認めたのか、美少女はにっこり笑って先導を始めた。
うす暗く、狭い通路を速足で歩く美少女に着いていくと、暫くして大きな広間に出た。
中央に大きな置き時計が置かれていて、その周りにはたくさんの人が立ち止まったり、足早に歩き去ったりしている。呆けていると、横を通り過ぎた人に肩をぶつけられた。
「なにやってんの、ほら、変なとこ立ってると邪魔になるよ?」
「あ、ああ、ごめん」
今度は手を掴んだ美少女がぐるりと方向を変えて再び歩き出した。今度は誰にもぶつからないよう身体を捻りながら歩く。
普段、これだけの人が歩いている所を見ないので、視界にも身体にも、とても圧巻される光景だった。
「すごい人だな…」
「そりゃ、零番街の中央連絡橋だからね、人が居ない時の方が少ないよ」
さも、何でも無い事のように説明されるがちっともわからない。聞いても分からなさそうだ。
大人しく、美少女の背に着いていくと、中央よりも人の減った一角で美少女が足を止めた。
壁一面がガラス張りの店になっている一角はショッピングモールを彷彿させた。何処の国にもこういう作りになっているようだ。利便性があるからだろうか。
美少女が真ん中の扉を押して潜ると、突然辺りがオレンジ色になった。照明効果のようだ。扉の手前に設置された机に美少女が座るので、サノトもつられて隣に座った。
サノトが座ったのと同時に、隣からすっと何かを差し出された。美少女の手では無い、もっと骨ばった男の手だ。
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