呟いた後、がっくりと項垂れ肩を落とした男だったが、その内スイッチを切りかえるようにしゃき!と背筋を伸ばすと、アゲリハとサノトを強い視線で一瞥した。

「==、========?」

「私とけっこ」

「======、=======」

「サノト、状況を説明しろと言われているぞ」

「状況?えーと、…誘拐?」

「誘拐?愛の逃避行の間違いだろう?」

「……=======、=================?」

「サノト、此処にどうやって来たか覚えているか?」

「お、おう?どうって…」

咄嗟に思い出そうとしたが、列車が空を飛んだ辺りから意識がぶっ飛んでいたので上手く思い出す事が出来なかった。漠然と覚えているのは、途中から辺りが真っ暗になった事か。

「いや、全然覚えてない…」

「覚えていないそうだぞ」

正直に話すと、男がメガネを持ち上げた。丁度、屈折で目が見えない角度になる。

「=====、==========、…==========?」

「うーん?」

「==========、==========?」

「…おねがい?」

振り返った男に対し、こてんとアゲリハが小首を傾げて薄く笑った。男が一度固まり、次いでがつんと溜息を吐く。やれやれと言いたげな態度だ。

「==========、==========、====================…==?=======」

急に男が目前にまで近づいた。「え?」と反応する暇もなく、首筋付近にどすん!と大きな音が響いた。

一瞬目の前に火花のような物が散って、から、何故か口もきけないほど視界が真っ暗になった。





妙に、瑞々しい匂いで目が覚めた。横顔をシーツに擦り付けて、ついでに目をごしごしと擦る。

朝かな、もう起きないと。そう思って天井側に顔を向けた瞬間―――ぎょっと目を剥いた。

「おっきたー?」

鼻先にかかりそうな程近くに誰かの顔が迫っていた。

その顔立ちは非常に愛らしく、サノトの御身分ではとても知り合える事の無さそうな美少女だった。

ぱちぱちと二度瞬きしてから、ふっと「ああ、まだ夢か」と思った。こんな美少女が寝て起きてから目の前にいる訳がない。アニメでもあるまいし。

しかしこんな美少女を登場させる事が出来るなど自分の想像力も大したものだ。意外と小説家とか向いてたりし…あれ、なんだこの既視感。

「おきてるー?大丈夫ー?」

茫然としていると目の前の美少女にむぎゅう、と顔を掴まれた。左右に思い切り引っ張られる。結構痛い。

あれ、まてまて、痛い?…起きてる?あれ、これも既視感。

え、じゃあ、この子誰。いや、此処何処?…あれ?

暫くぐるぐる考えていたが。

「起きたかサノトー!」

突如向こう側から現れた人の姿を見た途端、がちん!と頭の捻りが戻った。上体を思い切り起こしてから、思い切り叫ぶ。

「あげりはぁあぁあああああ!!!」

至近距離で怒声を聞いた美少女は耳を塞いで眉を顰め、向こうから現れた男―――アゲリハは、何処か嬉し気に、上げた罵声を浴びながら近づいてきた。

抱き着かれそうになったが、さっと避け、代わりに肘を打ち込んだ。滅茶苦茶に咽た相手の胸倉を、ぐぃと掴む。

「てめぇ何度も登場すんなや!いい加減夢落ちで終われよ!顔からしてくどいんだよ!!」

「なにそれ酷い!!」

「黙れお前一発殴らせろ!!」

承諾を貰う前に思い切り殴ってから立ち上がる。床にキスをしている相手を放って見知らぬ床を踏むと、出口らしき場所に向かって歩き出した。

その背を誰かが阻む。振り返ると先ほどの美少女が首を傾げてこちらを覗き込んでいた。

「どこにいくの?」と聞かれるので、簡潔に「帰る」と答える。すると、美少女がますます首を傾げて「どうやって?」と尋ねた。

………。

……あれほんとだ、どうやって帰るんだろう。

ちらりと、床に倒れているアゲリハを一瞥してから美少女に目を向ける。

「…あの、君、此処から俺の家までどうやって帰るか知ってる?」

「うーん?むしろ自分が何処から来たのかきちんとわかってる?此処が何処かとかも、僕、色々説明する為に呼ばれてるんだけど?」

「えーと?ここどこ?」

「トーイガノーツの片方、トーイガだよ、君は異邦人なんだよね?」

「…いほうじんってどういう意味?」

「やばいねアゲリハ様、そんな事も説明しないで連れて来たんだ」

「うっかり」

「どーりで状況の割りに落ち着いてると思ったぁ」

「流されてるだけかもしれんぞ」

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