凄い夢を見ていた。

普段自分の夢物語に評価をつける事など無いのだが、今回ばかりは群を抜いて奇抜だった為、まるで映画を評価するような気持ちになっていた。

どれだけ奇抜かといえば、カラスを真っ赤に塗りつぶす位の奇抜さだ。

かくいう夢の主要人物も真っ赤なカラスのようだった。厳密に言うと、カラスを真っ赤にした位派手な男、だったが。

夢の中で自分は何を血迷ったのか、その男を何故か家に連れ込み、挙句世話をしていた。

見た目と同じくらい気質異質な男の所為で散々苦労をしていたが、最終的には男が国へ帰るという事で終結するように見えた。

見えた、のだが。

男がこれまた何を血迷ったのか、夢の中の自分に惚れた腫れた結婚してくれ等ととんでもない求婚宣言をかまし、更には、何処ぞから持ちだした列車に自分を放り込むと、いざゆかんと拉致したのだ、あろうことか空へ。

銀河鉄道かよ、読んだ事無いけど。

再三言うが凄い夢だ。サスペンスでもホラーでも純愛ラブロマンスでも無い、強いて言うならSFコメディが一番近いかもしれない。

幼い頃にも一度だけ、これくらい大がかりで濃密な夢を見た事がある。あの時は確か、宇宙にロケットで飛んで行って火星人を連れ帰り、母親にステーキしか入っていない弁当を作って貰ってから、当時好きな子に告白をした、みたいな、違う内容の映画を三本立てに盛り込んだような内容だった。

どちらも脈絡の無さはそっくりだ。

しかし、大きくなった自分にこれだけの誇大妄想が出来るとは思って居なかった。

現国のテスト等で「~の気持ちを述べよ」という回答が尽く当たらない位には想像が乏しいと思っていたのだが、思わぬ誤算だ。

意外と小説家とか向いてたりして。まぁ、向いていた所で、興味が無いからなろうとも思わないのだけれど。

しかしこの夢、何時終わるのだろうか。

冷静に自己分析出来る位には意識が浮上しているので、寝醒めはもう直ぐの筈だ。なのに、未だ風景は列車の中。

ふと窓の外を見れば、空が真っ黒に染まっていた。がたんごとんと音を立て揺れていた列車も動きを止め、しんと静まり返っている。

屹度夢の世界が薄れている証拠なのだろう。あまり楽しく無いから出来れば直ぐに起きてしまいたい。

そんな事を考えていると、こつこつ、判別のしにくい音が何処ぞから聞こえた。

現実の向こう側で鳥が部屋の窓でもつついているのだろうか。だとしたら、夢の終わりはもう直ぐだ。

ちょっと期待して、一度目を閉じ、開ける。が、見えた光景に心底がっかりした。

「着いたぞサノト」

視界の全ては未だ列車の中、加えて今度は、顔と格好の自己主張が激しい赤カラス男が立っていた。

幕を引いたかと思いきや再登場したらしい、思わずげんなりとした。

おいおい何時まで続くんだよこれ。

男にずい、と顔を寄せられる。目の淵がくっきりとした綺麗な瞳とお粗末な自分の目が重なる。

じっとその目を見つめてから、数秒後、サノトは重い口を開いた。

「…あのさ」

「うん?」

「何時終わるの?」

「何がだ?」

「ああ、聞き間違えた、俺何時起きるの?」

「だから何がだ?」

終着点は何処だと訪ねてみれば、男は自前の美貌をちょこんと真横に傾けて、サノトの疑問に疑問を返してきた。

自分の夢だから簡単に理解して貰えるかと思ったが、そうでもないらしい。

そういえば自分の夢が自分の思う通りに動いた事なんて無かったな。それに、思い描きたい光景を意図的に映し出した事も無かった。

そもそも、こんな絶世の美人を夢に生み出そうと思った事自体無かったけれど。

「つうか、こんなすげぇ美人想像できるとか俺すげぇな」

「あれ?私今褒められた?じゃなくて、だから何がだ?」

「だから、この夢何時覚めんの?」

「夢じゃないぞ?」

「ははは、夢だよ、だってわけわかんねぇもん」

「大丈夫かサノト?夢じゃないぞ?」

「しつけぇな」

夢がしきりに否定してくるので若干イラッとした。が、そもそも自分の内から出ている夢なので、本質でも反映されているのかもしれない。

否定に否定を繰り返すという事は、つまり頑固者という事か、…うん、割と思い当るかもしれない。

「サノト?サノトー?駄目だ、混乱の極みだな、…致し方無い」

男を無視していると、その内ふむ、と男が顎に手を当てた。それから、何を思ってか顎に置いていた手を大きく振りかぶる。

そして次の瞬間、ばちーん!と、サノトの頬を豪快に引っ叩いた。

「―――いっっってぇなおい!!!」

音に比例した痛みがじわ!と襲ってきた瞬間、目を開いて男に抗議をした。

しかし、男は悪びれた様子も臆した様子も無く、何か心得たような顔で、にこりと笑う。

「痛い」

男が微笑んだまま、引っ叩いた手の指でサノトの頬を指す。

「あ!?」

「ほら、痛い」

「んなの正面からビンタされりゃ痛いに決まって!………、」

指された問いかけに当たり前だ!と勢い良く答えようとして、から、ぴたりと止まった。

「………い、いたい」

「うん、痛い」

「いた、い…?」

「痛いな?」

男の簡潔な言葉と行動は、百文字で説明されるよりも分かり易かった、これ以上の説得力は無かった。

「夢じゃないぞ?サノト」

「………ぎぃやぁあぁぁぁあああぁああああああ!!!」

夢、じゃ、ない!?

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