「馬鹿だろこの馬鹿!なんでそんな事考えるの?なんで普通に物が言えないの?…頭痛い」

「なにがだ!物事に同じものをぶつければ、根底が消えるものだろう!」

「そうじゃない!そうじゃないから!」

「私は真面目に言っているんだ!真面目に聞いてくれ!」

「いやそれ俺の台詞だからね!」

「じゃあ何をすれば良いんだ!どうしたら良いんだ!教えてくれ!教えてもくれないのに、無視するなんて酷いじゃないか!」

「いや、そもそも、お前がこれから何かをするより、お前が何もしなければ良かった話だからね?」

「そんなの無理だ!あんなものを見せられて、黙っていられるか!」

「黙っていようよ。お前、ひとの厄介になってる立場ってものがあるだろ」

「うるさいうるさい!その厄介を拾ってくれたのはサノトのくせにー!」

「……えっ。うん、そうなんだけど…」

―――待てよ。よくよく考えると、アゲリハだけなじるのもおかしいのか?

勿論、線路のくだりは全部アゲリハが悪いんだけど…元はといえば、いろいろ、俺のせいじゃないの?

混乱して形の見えなくなっていた、たくさんのずれたちが、今更集結して、サノトの頭に組み立てられていく。

ーー元々、別れる別れないの発端は、サノトと美紀のくだらない喧嘩と意地が原因である。

しかし、そもそも美紀との連絡を忘れ、美紀との気持ちが離れ、その結果、美紀とこいつが出くわしあんな羽目になったのは、彼を拾ったサノトの所為ではないのか?

彼と彼への責任を軽はずみな気持ちで連れ込んだ、自分の所為ではないのか?

彼は自分を拾ってくれとサノトに頼んだ訳では無い。それを持ち込んだのは自己責任だ。

それは、一番初めに、自分が了承した事だっただろう。

そっか。そうだな。そうなんだけど…。そんなの…。

納得した瞬間、ーーー大きな理不尽に襲われた。

良いことをした仕打ちがこれって、なんなの?泣きそうになって、通り越して、笑ってしまった。

「……ははは」なんだよこれ。やっぱりこんなやつ拾わなければ良かった。

「ははは…まじかー…はははは!俺の所為か!人の所為にしてんじゃねーってのな!でもひでーよ!良いことしただろ俺!なんだよこれ!あはははは!…はははっ」

急にゲラゲラ笑い出したサノトを、相手がぱちくりと見つめた。その間抜けな顔に「…いったい!」一発張り手を入れて、再び笑い出す。

「なんでお前みたいなの、拾っちゃったんだろうな!」お前さえ居なければ何事も無かった話なのに!ああ、それこそあとのまつりだ!

「…そんなこと言わないでくれ」過去への後悔を思い切り笑い飛ばしていると、不意に弱々しい声が聞こえた。

アゲリハが、顔の隣に手をついて、首を斜めに傾け、サノトを上から見下ろした。

「私は、…サノトに拾って貰って、嬉しかったんだぞ」

きゅ、と、形の良い唇を引き結ぶ。潤沢な睫が水分を含み、じっと見つめられる。その美麗さに、カラ元気が分解された。

「…うわー、顔の良い奴ずるい」一瞬で引っ込んだ笑いに、先ほど以上の理不尽を感じた。

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