「…だからなんだ!お前に関係ないだろ!関係ない奴がごちゃごちゃ手を出すなよ!俺たちの問題だ!」
「私にはある!私はお前が…っ」
「うるせぇ!もうお前いい加減にしろよ!散々勝手な事ばっかりして…出て行け!そのツラ俺に二度と見せるんじゃねぇ!お前なんか大嫌いだ!」
渾身の力で相手の身体を蹴り飛ばしてから、ふらりと踵を返した。
千鳥足でキッチンに向かうと、湯立った頭を冷やす為、カップに水を汲み、一気に飲み干した。
口から零れた水滴を腕で拭うと、そのまま、ずるずると、床に蹲った。もう何もしたくない。このまま倒れ込んでしまいたい。
それが現実になるまで数秒とかからなかった。ほとんど体力の残っていなかった自分の重心が、ぐらりと、冷えた床に落ちる。
「サノト!」寸前に、誰かがサノトを受け止めた。上を向くと、心配そうにのぞき込んでくるアゲリハの姿が見えた。
まだいやがったのか、この野郎。悪態をつこうとして、そんな気力も残っていない事に気付く。
体力の切れたサノトとは違い、アゲリハは倒れそうになったサノトを抱き起すと、そのままひょいと横抱きにした。
部屋の隅までサノトを運ぶと、ベットの上にそっと身体を下ろす。
恨めしい顔で見上げていると、それに気づいたアゲリハの目が咄嗟に潤んだ。
「…悪かった。お前がそんなに怒るとは思っていなかったんだ」どうして怒らないと思っていたのか。そもそも怒る以前の問題ではないのか。不思議で堪らない。
そんなサノトの無言の疑問が通じることはなく、アゲリハは暫くすまなかった、悪かったと、ひたすら謝罪を繰り返した。
ひたすら無視していると、その内、アゲリハが息を詰めて黙り込んだ。
その隙に、かろうじて動く腕を伸ばして距離を取ろうとしたが、逆に手を掴まれ、相手の胸に押し当てられた。
胸の上でぎゅ、と手を握り「サノト」アゲリハが再び口を開いた。
「そんなに嫌わないでくれ。…どうしたら赦してくれる?なんでもするから、私の方を向いてくれ」
「別に」お前にして貰う事なんて無い。とっとと出て行け。そう言おうとしたのだが「ああそうだ!私も線路に落ちれば良いのか!それなら問題はなくなるだろう!」次に飛び出た相手の提案に「ぶっ!」思いっきり吹いてしまった。
「なんだそれは!馬鹿にしてんのか!」振り向きざまに怒鳴ろうとしたが、直ぐに固まってしまった。
相手が、滅茶苦茶真剣な顔でこちらを凝視していたからだ。
「轢いてくれても構わないんだぞ」
…え、なに?本気で言ってんの?
「お前は馬鹿か!」
「ば、馬鹿とはなんだ!」
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