「ごめん。俺、お前とこれ以上やっていける気がしないんだ。あれが誤解だったんだとしても、俺、その間に色々考えちゃって…そしたら、俺、これからお前と、上手くやっていけるのかなって、不安になっちゃったんだよ」

美紀は暫く黙り込んでいたが、サノトがふいと視線を逸らした瞬間「―――!」空いた頬を思い切り引っ叩いてきた。

驚愕に振り返ると、恨めしそうな顔で泣く美紀の上目遣いが見えた。

「馬鹿!ひどい!なによ、私が全部悪いみたいに言って!私があんな風に言ったから別れるだなんて、ちょっと友達とじゃれてたから別れるだなんて!私そんなつもりじゃなかったもん!そんなつもりじゃなかったのにぃ!どうして別れるだなんて言うのよぉ!」

「美紀!落ち着け!」

「私悪く無い!悪く無いもん!うわぁああん!」

身も蓋も無く滅茶苦茶に泣き叫ぶその姿は、まるで幼い子供のようだった。

「サノト…」やがて彼女が、泣き腫らした顔をサノトの胸に押し付けてきた。

かぎ慣れた香水の匂いが、傍でふわりと風を纏う。

「分かってる。サノト、怒ってるんだよね?アタシがずっと我が儘だったから、我慢できなくなっちゃったんだよね?サノトが優しいから、甘えすぎちゃったんだよね。…ごめんね。いっぱい謝るから、だから、私たち、別れないよね?」

「………」

返事に詰まってしまう。そんな事今更言われても、今更謝罪されても。

サノトの中ではもう、全部終わってしまった事なのに。別れるも何も無いのに。

…どうして俺たちはこうなってしまったんだろう。友人が言うように、若干疲れていたことは否定しない。

でも、そこそこ上手くいってて、幸せなんだと思ってたのに。

俺が余計な事に気付かなければ良かった?

そんなの、後のまつりだ。

「…なんで別れないって言ってくれないの?サノト、私の事好きだってずっと言ってたじゃない。今でも好きでしょ?ずっと好きでしょ?ねぇ…ねぇ!言ってよ!好きって言ってよ!」

まごつくサノトの傍で、美紀がどんとサノトの胸を叩いた。

咽せるのを堪え、返す言葉を探したが「…ごめん」結局、簡素な断りしか思い浮かばなかった。

その断りを聞いた途端、美紀が振り上げた腕をぴたりと止めて、愕然とした表情でサノトを見上げた。

「…許さないわよ」小さく呟いた美紀が、突然サノトから離れてホームの淵に立った。

そこで、かつかつと、靴の踵を打ち鳴らしながら、泣き腫らした顔をにっこり歪めて、「ねぇ?」と笑う。

「そんな理由で別れるなんて、アタシ許さないんだから。サノトが好きって言ってくれるまで、アタシ此処に居るからね?」

「…え、やめろよ。危ないよそんなの」

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