初めて出来た彼女に、ずっと大事にしてきたつもりだった人に、あんな仕打ちをされた事が。長引かなかっただけで、あの時は本当に辛かったんだぞ。
それなのに、俺が馬鹿だったと言うのか。軽く受け止めて、流せなかった俺が、どうかしていたと言うのか。
違う。そうじゃない。そうじゃない…。でも、何となくわかっていた。これはお互いの間で此処数日の間に、色々な事がずれただけなのだ。
お互い間違っていたかもしれないし、間違えていなかったかもしれないこと。
それは朦朧とし過ぎて、今では形が全く分からない。
けれど、崩れたものはもう二度と同じ姿にはならない。それだけは理解していた。
「ねぇ。もういいでしょうこんな話。アタシお腹空いた。折角来たんだし、みんなと合流しようよ」
「…お前ひとりで行けば?」
「え?ちょっと、サノト。何処に行くのよ」
「…帰るわ」
踵を返して歩き出しながら、サノトはスマホを取り出して、地図と、ついでに鈴木に連絡を入れた。
説明も素っ気もなく、ただ「ごめん、俺帰る」と打って送れば、間を置かず「わかった、気を付けて帰れよ」催促の無い返信が返ってきた。
簡素な文面に内容を察して、こちらに合わせた連絡を返してくれたのだろう。本当に、有難い友人だ。
…明日、鈴木に小牧美里のことを相談してみよう。出来れば謝罪出来る場を設けて貰えるように頼み込もう。
それが今、自分が彼女に出来る精一杯だ。
「なによ、まだ怒ってるの?」後ろをついて来た美紀が不安そうに尋ねてくるが、答えられる気分では無かったので無視したまま歩き続けた。
美紀は暫くサノトの隣を歩いていたが、やがて、斜めへ、後ろへ移動していく。
その都度、謝ったり、窺ったりしてきたが、それも全部無言で通した。
段々と増えて行く気まずい雰囲気が、道なりに続いていく。
駅に着くと、人が居なかった所為もあってか、とうとうサノトの方が気まずさに耐えきれなくなった。
漸く相手の方に振り向いて「ごめん」話を切り出す。
美紀が、やっと振り向いたサノトに、嬉しそうな顔を見せたが。
「ちゃんと言うよ。…これっきりで、俺たち別れよう」
「…え」
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