「谷さん、今来たんですか?中根ちゃんたち、もう次の場所に行ってて…」
「知ってるよ。コンビニ寄って、今から向かうとこ。…それよりさぁ、なにしてんの?」
「え!あの、その、彼は…!」
小牧美里が、照れながらサノトを相手に紹介しようとする。
しかし、相手の視線が自分に向いていない事に気付くと、頬の色を元に戻し、困惑を浮かべた。
相手の視線は、小牧美里ではなく、じっと―――サノトの方に向いていた。
「なにしてんのよ、サノト」
「………美紀」
美紀がサノトの名前を口にする。サノトもつられて、彼女の名前を口にする。
取り残された小牧美里だけが、目を回していた。
「谷さん、あの、彼と…知り合いですか?」
「これ、アタシの彼氏」
親指で指された指名に、思わず「は?」と目を剥く。
咄嗟に声も出そうとしたが、その前に「う、うそ」ぱっくり口を開けた小牧美里の声に阻まれた。
「嘘ついてどーすんのよ。嘘だったら良かった何かでもあるわけ?ちょっと、小牧、ひとの彼氏に色目使ってるんじゃないでしょうね?」
「………」
ふっと、瞳に暗色を灯した小牧美里が、やがて小刻みに震え始めた。
「やだな、三崎さん」今にも泣きそうな顔でサノトに振り返り、口を戦慄かせる。
「付き合ってる人、居るんなら、こんなとこ参加しちゃ駄目ですよ。谷さんだって…。やだな、これじゃ私…ば、馬鹿みたいじゃ…」
「は?そんなの、こっちの勝手でしょ?」
「…っ!」
とうとう、ぼろっと滴を落とした小牧美里が、何も告げずその場から走り出した。
彼女の居た場所に、水の落ちた痕が残っている。咄嗟に追いかけようとしたが、飛び出た足が地面を蹴り出す前に踏鞴を踏んだ。
何時の間にか、美紀が腕に腕を絡めていたのだ。
「どこにいくのよ!」
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