「アイツ、顔が良いから良さそうな奴に見えたかもしれないけど…なんていうのか、ちょっと厄介っていうか。えっと、小牧ちゃんには極力会せたくないっていうか…」

駄目だ。当たり障りなく買い摘まむ程だからなんだという話にしかならなくて、説明がつかなくなる。

しかし、説明に奔走するサノトを他所に「やだ、そんな…」小牧美里が困ったように俯いた。

数秒後、ぱっと顔を上げた彼女の顔色が、頬から耳まで真っ赤に染め上がっていた。

「わたし、確かに、あの人のこと、綺麗な人だなって思ったけど、それは、それだけで…あのっ」

「は、はい?」

「…あの、わた、私、三崎さんのほう、が。かっこいいと思います。だから、そんな、…そんな風に言って貰わなくても、私、別に、急にあの人のこと、好きになったりとか、しませんから」

そこで漸く、自分の言い方がいい加減だった事に気付く。

「ち、ちがっ」弁解しようとしたが「わたし!」小牧美里に遮られた。

興奮しているのか、目元にうっすらと涙の膜が張っている。

「嬉しかったんです!」

「え?」

「…さっき、珈琲、取り換えてくれた時の、こと」

勢いを、強めたり削いだりしながら、小牧美里は真剣に言葉を続けた。知らず、サノトも黙って聞きいる形になる。

「あんな風に、男の人にさりげなく気遣って貰ったの、初めてだったし。それに…私、初めて、誰かに、う、運命の人かもだなんて、言われて。あれから、胸がずっと痛くて。…貴方は、もしかしたら冗談で言ったのかもしれないけど、でも、私、本当に運命かもって思って。本当に、そうかもしれないって…っ」

「小牧ちゃん…」

「運命の人って、いるんだって…」

やばい。凄く胸にくる告白のされ方だ。

ここ暫くおさらばしていた自分の動悸が、早鐘を打っていくのが手に取るように分かった。

顔を赤くしたまま、何も言えなくなったサノトに、そっと、小牧美里が近付いて来た。

「私、三崎さんのことが…」サノトの手を握って、次の言葉をもどかしそうに控える彼女の傍で。

「――――サノト?」

その時、自分でも彼女でも無い誰かに名前を呼ばれ、二人でびくりと身体を震わせた。

「なにしてるの?」相手が近付いて話かけてくる。振り返ったサノトは、その格好のまま、相手の前で凍り付いてしまった。

「谷さん!」小牧美里は相手と知り合いだったようで、サノトから手を離すと相手に駆け寄っていった。

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