なんでそんな事するんだよ、そう続けようとしたが。

「…おい女。ちかいぞ、サノトから離れろ」

すっと、アゲリハの視線が細く切れた。その迫力の強さに、びくりと肩が鳴った。

ふざけた態度に隠れたアゲリハの凄みが、剥き出しになって襲ってくる。小さく震えた手を握って誤魔化した。

傍に居た小牧美里も余波を受けたらしく、同じ大きさで肩を鳴らすと、サノトの腕に縋り着いて来た。

女子特有の小さな手が、怯えて触れた途端、すっと、震えが止まった。

「小牧ちゃん、こっち!」

「え、あ…!」

小牧美里の手を掴み走り出す。とにかく、厄介事と直ぐに離れるのが先決だろう。その後の事はその後に考えよう。

逃げ出す最中、ふと、一度だけ相手に振り返ると、アゲリハが、じっと、―――泣きそうな顔でこちらを凝視していた。

なんであんな顔をしているんだろう。

「わけが分からん…」

ぽつりと内心を呟いたが、既に遠のいていたので、相手に聞こえている様子は無かった。






走り抜ける途中、コンビニの明りを見つけると真っ先に足を寄せた。

明るいライトの下から、建物の影にまで移動して、そこで漸く足を止める。その瞬間息が逆流し、勢い良く咽た。

盛大に咽ていると、隣から「大丈夫ですか!」慌てた声が振ってきた。

顔を上げると、小牧美里が心配げな顔で覗き込んでいるのが見えた。

「平気…あの、ごめんね、急に走り出したりして」

「いえ、それは別に…。それよりも、あの、さっきの方は?」

話を切り出してから、彼女の目に再び困惑が浮かび上がった。そりゃそうだよなと、変な笑いがこみ上げてくる。

けど、どうやって説明しよう。自分だって、実はよく分かっていない奴なのに。

自分が分からない事を他人に説明するって、どうやれば良いんだろう。

「えっと、さっきの奴、俺の知り合いで」

どうしても、あれを友人に当てはめる事が出来なかった。だから知り合い。

素っ気ない言い方だが、これが一番間違っていないだろう。

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