「あの」小牧美里が、服を掴んだまま、声を絞り出した。
「きゅ、急にご迷惑をおかけして…本当にごめんなさい」
「いや、迷惑って事はないけど…」
「あの、あの、ですね。迷惑ついでに…、いえ、あの、厚かましいのは分かってるんですけど…い、今からは、私と、ふ、二人で…えっと、どうしよう。あとのこと、何も考えて無かった…そ、そうだ!二人で歩きませんか!」
「…う、うん。いいよ?」
「ありがとうございます!」
なにこの子。いろいろ可愛いぞ。やばい。本気で、顔があっついかも。
計画性の無い提案に二人で頷き合ったはいいものの、歩き初めて早速、行く先に困ってしまった。
とりあえず、近くに何か目ぼしい場所はないかと、再び地図を出そうとして―――勢い良く取り出したスマホが、外気に触れた途端、指からつるりと滑り落ちてしまった。
コンクリートの地面に叩き付けられたソレを、あーあと、嘆息しながら拾い上げようとして。
「落ちたぞ」
その前に、誰かが拾って渡してくれた。おそらく小牧美里だろう。ありがとうと言ってソレを受け取り―――ふと違和感を感じた。
物を拾ってくれた相手は対面にいる。しかし、彼女に背を向けて屈んだので、小牧美里は後ろに居る筈だ。
それに、この、すらりと長い、節の際立つ手は女の物では無い。
正体を確かめようと顔を上げた直後、痛い程目が開いた。
「アゲリハ…」
「サノト、そこの女と何処かへ連添う様子だが、…どこへ行くんだ?」
小牧美里が、突如現れたアゲリハに、ほわっと頬を染めて見入った。
それに気づいたアゲリハが、嫌そうに顔を歪めていく。
我に返ったらしい小牧美里が「あの…」咄嗟にサノトの服を掴んだ。このひとは、どちらさまでしょうかと尋ねているのだろう。
アゲリハがサノトの名前を呼んだので、知り合いだと認識されているようだ。
その疑問に答える前に、不穏な気配を感じ取って、その場を小牧美里と共に飛びのいた。
「ひゃ!」と、声を上げる華奢な身体ごと引っ張り、飛びのいた先でアゲリハに振り返る。
相手は、手を伸ばした状態で固まっていた。その先は、小牧美里が立っていた場所だ。
「おい。お前いま何をしようとした?」剣呑な声で尋ねると、手を引っ込めたアゲリハが「別に?サノトから手を離させようとしただけだが?」しれっとした声で答える。
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