気づいているのに去って行ってしまう彼を追いかけようと、足を踏み込んだところで、がし!と、誰かに背後から腕を掴まれた。
うぇ!と呻き、今度はサノトが振り返ると。
「…あれ?きみ」
数十分前、サノトと会話をしていた女の子が、サノトの腕を掴んでいた。
少し俯きながら「あの、…あの」同じ言葉を繰り返している。
「どうしたの?」何度も尋ねている内に、漸く顔を上げた彼女が、勢いよく「鈴木さんが!」と叫んだ。
「え?鈴木?」
「鈴木さんが!あの、あの…っ、あとは、二人で、どうぞって」
「どうぞって…、ええ?」
話がよく掴めないんだけど、どういう事?首を傾げるサノトの鞄から、突如着信音が鳴り響く。
まさかと点灯した画面には「鈴木」の二文字が表示されていた。
女子に断りを入れ、早速通話を取ると『よー!二人きりになれた?』状況を説明する前に状況を伺われた。
「おい鈴木、なにこれどういう事?」
『やったねサノトくん!新しい彼女が出来るかもよ!』
「ええ!だから、どういう事!」
『いや、さっき小牧美里ちゃんが…あ、今、お前の目の前に居る女の子の名前ね?このあと、どうしても、サノトと二人きりにして欲しいって、こっそり頼んできたんだよ。可愛い女の子の頼みは断れないだろ?だから実行しました!』
「ええー!そういう事は先に言ってくれないかな!」
『いやー!お前には黙ってた方が面白いかなーって!』
面白味だけで物事を判断しないでくれるかな!
『というわけで、よろしくやれよー』
「あ!ばかっ、切るな!」
サノトの懇願空しく、通話は一方的に途切れてしまった。
耳に押し当てたまま茫然としていたが、つんつん、背後から指でつつかれて、はっと我を取り戻す。
首だけで、恐る恐る振り返ると、女の子―――小牧美里が、サノトの服の裾を掴んで黙りこくっていた。
その耳がほんのり赤くて、じっとそれを見続けていると、段々、自分の顔も熱くなってきてしまった。
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