二人で変な掛け合いをして、どっと笑いがとれたところで歌が始まった。
「ばしっといけよー!」鈴木の野次を受けながら、上手くも不味くも無い歌をひねり出す。
やがてそれが喧噪の中に溶けて行く最中、なんとなく、彼女の方に視線を寄越した。
しかし、彼女はサノトの方は向いておらず、他の女子と楽しそうにお喋りをしていた。
…なーんだ、やっぱり気のせいだよな。
ほっとしたような、ちょっと気落ちしたような、微妙な気分が昇ってきたところで、歌が最後の節を迎えた。
*
「すずきー。さっき言ってた子、今から来るってさ」
「そう?じゃあカラオケ切り上げて飯でも食いに行くか。その方がカラオケの途中より入りやすいだろ?」
「そうだね。じゃあ返事しとく。次の場所は予定通りで良いよね?」
「いいよー」
「りょうかーい」
場に区切りがついたところで「みんな、移動するよー」鈴木の合図と共に再び大移動が始まった。
サノトも、鞄を拾って椅子から立ち上がると、人波に混じって扉を潜った。
「…うわ!」出入り口付近でいきなり肩をくまれ、もんどりを打ちそうになる。
腕の持ち主に振り返ると、隣に立った鈴木が、にやり、企み顔で笑った。
「サノト、俺に感謝しろよ?」いきなりの振りに「は?」目が半分まで落ちる。
「なんのこと?」
「またまたー。もう少ししたら、二人きりにしてやるからさ。…頼まれたしね?」
「は?」会話の意味が分からないまま、鈴木と共に店を出た。
次に行く場所を鈴木に示され、軽く頷き、場所を地図で調べようと、視線を数秒落として―――「…あれ?」顔を上げた瞬間、周りに誰も居なくなっている事に気付く。
え?今の一瞬で置いていかれた?焦って首を振ると、近くの小道に、鈴木と他の面子が進んでいくのが見えた。
なんだ、ちょっと道が逸れただけか。安心して「おーい、ちょっと待って」向こうに呼びかけたが、何故か誰も振り返る様子が無かった。
あれ?聞こえて無い?もうちょっと大きな声で叫ぼうとした時、ひとり、サノトが声を出す前に振り返った。鈴木だ。
鈴木は、サノトの顔をじぃっと見つめた後、何故か…にやりと笑って、踵を返した。
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