サノトから飲み物を受け取った女の子が、それを両手で支えながら小首を傾げた。
「あの、よく、わかったね?」女の子の疑問には「ああ、うん」苦笑を返しておいた。
まさか、君の顔を見て、あの派手な男の苦い顔を思い出したとは言えまい。
どうしようも無い話だったのに、意外な所で役に立ったものだ。
「はは、俺たち、こうなるのが運命だったのかな?」思い出したのが、アゲリハだけにね。
「…え?」女の子が、ふと、頓狂な声を上げた。変な例えを出したので、反応に困ってしまったのだろう。「なーんちゃって」相手がこれ以上困らないように、さっさと話題を隅に除けた。
「それより、ミルクだけ貰っていいかな?」
「あ、うん、はい…」
サノトが手を伸ばすと「なんだサノト!良い感じか!」向こうで他の面子と宜しくやっていた鈴木がどん!と絡んできた。
組まれた肩が変な方向に曲がり、痛かったので「ちょ、止めろって!」振りきろうとする。
「このやろー!知らないうちにさっさと仲良くなりやがってー!ねぇねぇ君、こいつどう?俺のね、一押しだよー?」
「そんなんじゃないって!飲み物代えただけ!ごめんね、友達が急に変なこと言って…」
誤解を正そうと、体を捻った先でふと見えたものに、思わず動きを止めてしまった。
サノトの視線の先には、先ほどまで談笑していた彼女の姿があった。
彼女は、鈴木とサノトがじゃれついていたのを見ていた、かと思えば、さっと視線を逸らしたのだ。
その顔は、恥ずかし気な赤味を帯びている。
「…おいおい、やるなサノト。あの子お前に気があるぞ?」サノトにだけ聞こえるように、鈴木がそっと耳打ちしてくる。
「いやいや…」自分もつられて音量を下げた。
「そんな訳あるかよ。さっき初めて喋ったばっかりだよ?」
「合コンでそんなもくそもあるかよ。みんな出会いを求めて来てるんだぞ?先に扉を開けて上げただけで、惚れちゃった!なんて女もざらにいるのによ」
「ええ?それは極端な例であってさ…」
あくまで気の所為だと言い張るが、…実を言えば、こういう遣り取りが久しぶり過ぎて恥ずかしいのだ。
気晴らしが気恥ずかしいになっては、元も子もない。
それでも、鈴木は流そうとするサノトに「折角だろ?今自由なんだし、いけば?」しきりに念を押してきた。
「いやだから…」いつまでも消極的な態度を見せるサノトに、その内口を尖らせると、丁度隣から周ってきたマイクを「はい」サノトに手渡してきた。
「え?」意図を尋ねる前に、機械をさっさと操作した鈴木が、にっこり振り返って「サノトの得意なやつ、入れておいたよ!」急に振ってきたので、凄く慌ててしまった。
「いえーい!次は俺の親友、三崎サノト君でーす!お前、かっこよく歌えよー!」
「うわー!えっと、歌いますー!」
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