「うん、そう。あと、飲み物を取ってこようと思って」頷くと「じゃあ、飲み物、女の子たちに聞いてくるね」気の利いた提案をしてくれた。
女の子は直ぐに席を立ち、数分かけて戻ってくると、女子分の飲み物を告げた。
それを、2、3度聞き返して把握すると、ついでに「君はどうする?」と尋ねた。
「あ、私は珈琲…」
「分かった。珈琲ね」
注文を覚え終わると、丁度歌い終わった鈴木が「どうしたー?」マイクの音量で尋ねてきた。
「飲み物を取ってこようと思うんだ。女子は大体決まったんだけど、男子はどうする?」
男に注文を振ると、口ぐちに「何でも良い」「俺コーラ」「まかせる」と、適当な返事が返ってくる。
鈴木も「サノトに任せた!」と放り投げてきたので、とりあえず、唯一名前の出たコーラで注文を統一する事にした。
近くに座っていた男に運ぶのを手伝ってもらえるようお願いして、二人で往復する形で飲み物をとってくると、早速、思い思いの速さでそれらを口つけていった。
サノトも、持ってきたばかりのコーラを口にしようとして…ふと、目先に違和感を感じる。
そこには、先ほど、注文集めを手伝ってくれた女の子が座っていた。
持っていたコーラを机に戻して彼女の顔を見つめる。
彼女は、サノトに気付かず、自分の分である珈琲を、複雑そうな顔で眺めていた。
「なあ」サノトが声をかけると、女の子がはっと顔を上げた。サノトに気付くなり、慌てて視線を逸らす。
「どうかしたの?」
「えっと、あの…」
女の子が、何かを言いたげに口を開いて、結局何も言わずに閉じる。それを繰り返す。
「…あの、私、珈琲…」漸く呟いたが、主語が無いので理解にならなかった。
けれど、珈琲を見る彼女の複雑そうな顔に、段々と…見覚えを感じてきた。
つい先日、同じような顔を見たような。…いや、見たな、うん。
「…あのさ、もしかして、珈琲好きじゃなかった?」カマを掛けると「え!」驚く声が上がる。
「もしかして俺、君の注文を聞き間違えたかな?」
「あ、あの…その…うん。本当は、珈琲以外なら、何でも良いよって、言おうとして…」
「なーんだ。やっぱりそうか。ごめんごめん、俺、適当に切っちゃったんだな」
「ううん!私が、ちゃんと言わなかったのが悪いから」
「そんな事無いよ…って、これじゃ謝ってばっかりだね。じゃ、飲み物交換して、お互いこれで謝るのは無しにしようよ。コーラなら飲める?」
「…あ、うん」
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