ありったけの悪態を吐いてから、身体を反転させて走り出す。
数メートル走ったところで「………」ぴたりと足を止め、振り返った。
「―――帰りは8時くらいになるから!あっちの駅で待ってろ!バーカ!」
*
うろ覚えの道を駆け抜け通りにまで戻ると、指定の場所にまで向かう。
辿り着いて直ぐ扉を開けると、カウンター付近で鈴木の混じった集団を見つけた。
「悪い、遅れて」肩で息をしながら合流する。
「いいよいいよ。野暮用ってなんだったの?」
「…急に腹が痛くなったんだ。えっと、言い辛くて」
適当な嘘をつくと「えー?大丈夫?」鈴木は笑って済ませてくれた。
やれやれと、部屋の割り振りを手に入れた鈴木の後についていく。
端から四番目くらいの、ちょっと大きめの部屋に全員で入ると、お互いの顔を覗き合いながら、思いおもいの席に座った。
適当な自己紹介をし合ってから「俺いちばーん!」鈴木が滑り出しの良い声で選曲を始める。
早速歌い出した、鈴木の上々な歌声のお陰で、場の雰囲気が更に温まっていった。
皆が次々に選曲を始めるので、サノトも一曲くらいは入れておくかと、選曲の機械が回ってくるのを待った。
ようやく、その番が来たところで「うわ!」受け取り損ねて床に落ちそうになる。
慌てて機械は持ち直したが、その時の衝撃で、机の上の物がばらばらと床に落ちてしまった。
ごめんごめんと言いながら、機械を先に別の人に渡して、床に落ちた物を拾い集める。
拾って見たそれは、飲食サービスのメニュー表だった。
椅子に戻りがてら、ちらりと時計を見れば、針が一時に差し迫っていた。
暫くみんなで此処に滞在するだろうし、時間も時間だし、何かつまめるものでも頼んでおいた方が良いだろうか?
からあげとか、ポテトとか…あ、その前に、飲み物をまだ貰ってきてないぞ。
確かフリードリンクだったから、取りに行かないと。
幹事の指示を仰ごうと思い、サノトはちらりと鈴木の方に目を向けた。
しかし、曲はまだ中盤で、マイクを持った鈴木は乗り良く歌っていた。
「あの…」ふと、鈴木の歌声に交じって控えめな声が聞こえた。
振り向くと、髪を肩で切り揃えた女の子が、こちらを見て小さくはにかんでいた。
女の子は、はにかんだ口で「なにか頼むの?」と、サノトに訪ねてきた。
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