ありったけの悪態を吐いてから、身体を反転させて走り出す。

数メートル走ったところで「………」ぴたりと足を止め、振り返った。

「―――帰りは8時くらいになるから!あっちの駅で待ってろ!バーカ!」



うろ覚えの道を駆け抜け通りにまで戻ると、指定の場所にまで向かう。

辿り着いて直ぐ扉を開けると、カウンター付近で鈴木の混じった集団を見つけた。

「悪い、遅れて」肩で息をしながら合流する。

「いいよいいよ。野暮用ってなんだったの?」

「…急に腹が痛くなったんだ。えっと、言い辛くて」

適当な嘘をつくと「えー?大丈夫?」鈴木は笑って済ませてくれた。

やれやれと、部屋の割り振りを手に入れた鈴木の後についていく。

端から四番目くらいの、ちょっと大きめの部屋に全員で入ると、お互いの顔を覗き合いながら、思いおもいの席に座った。

適当な自己紹介をし合ってから「俺いちばーん!」鈴木が滑り出しの良い声で選曲を始める。

早速歌い出した、鈴木の上々な歌声のお陰で、場の雰囲気が更に温まっていった。

皆が次々に選曲を始めるので、サノトも一曲くらいは入れておくかと、選曲の機械が回ってくるのを待った。

ようやく、その番が来たところで「うわ!」受け取り損ねて床に落ちそうになる。

慌てて機械は持ち直したが、その時の衝撃で、机の上の物がばらばらと床に落ちてしまった。

ごめんごめんと言いながら、機械を先に別の人に渡して、床に落ちた物を拾い集める。

拾って見たそれは、飲食サービスのメニュー表だった。

椅子に戻りがてら、ちらりと時計を見れば、針が一時に差し迫っていた。

暫くみんなで此処に滞在するだろうし、時間も時間だし、何かつまめるものでも頼んでおいた方が良いだろうか?

からあげとか、ポテトとか…あ、その前に、飲み物をまだ貰ってきてないぞ。

確かフリードリンクだったから、取りに行かないと。

幹事の指示を仰ごうと思い、サノトはちらりと鈴木の方に目を向けた。

しかし、曲はまだ中盤で、マイクを持った鈴木は乗り良く歌っていた。

「あの…」ふと、鈴木の歌声に交じって控えめな声が聞こえた。

振り向くと、髪を肩で切り揃えた女の子が、こちらを見て小さくはにかんでいた。

女の子は、はにかんだ口で「なにか頼むの?」と、サノトに訪ねてきた。

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