「えらそーに言うな!大体、どうやってつけて来たんだよ!」
アゲリハが、ふんと鼻を鳴らして何かを取り出して見せた。掌に収まる、四角い板切れ。どこからどう見ても切符の類だった。
「往復で買った」いや、そこまで聞いてないから。
「な、なんで切符なんて持ってるの?買ったの?」
「金を置いていったのはお前だろう」
「え、そりゃ、一応は置いていったけど…」
「私の国と仕様は同じだったし、苦労はしなかったぞ?」
驚き過ぎて呆けまくっていたが、はたと、自我を思い出す。
「おい!今朝も言ったけど、俺は今日用事があるの!お前を連れていけない用事なの!お前と遊んでるヒマはないの!ていうか、男漁りはどうした!そっち行けよそっち!」
「いやだ!サノトといる!」
「はあ!」
「連れていけないのなら、お前の用事を今から、全部私に変更しろ!」
「無茶ぶり言うな!」
「うるさい!異論は認めないぞ!」
浴びせられる言葉が全て、どういう了見だ!と聞きたくなるほど理不尽だ。
相手を潰す勢いで反論したかったが、疲れが遅れてきた所為で、活きの良い言葉が出てこなかった。
漏れださなかった悪態の代わりに、大きな溜息が口から零れ落ちる。
「お願いだ。帰ってくれ。今日はお前の面倒は見れないし、用事だって外せな」言いかけた口がピタリと止まる。
視界の端に見慣れぬ赤色が映ったのだ。それは、アゲリハの手からじわじわと滲み出ていた。
「おい、お前の手…怪我してないか?」指さすと、同じ場所に相手が視線を落とした。
「ああ、何処かでぶつけたのか」何でもないことのように呟いて、目を細める。
「お前を追うのに必死で、気づかなかった」
「バカじゃねぇの?」
「ば!バカとはなんだ!」
「いや、なんか、色々と」
数え切れない溜息を落としてから、鞄の中を探る。すると、駅で貰ったティッシュをひとつ見つけた。
これでいいかと、何枚かそれの中身を抜き取り、アゲリハの手に被せて傷口を乱暴に拭った。
…あれ?血の割りに、傷口が見当たらない。血が派手に出てただけなのかな?まぁいいけど。
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