意味ありげに微笑むと、サノトに向かって片目を閉じて見せる。いやいや、流石ですよ、鈴木さん。

「それじゃあ、場所を移動しようぜ」その言葉を合図に、全員で足並みを揃えて歩き出した。鈴木は前を歩いて先導を務めている。

その隣では、鈴木の友人である女子が、嬉しそうな顔で鈴木に話かけていた。鈴木が振り向くと、早速、二人並んで盛り上がり始める。

さっきから、他の男に目移りしない感じを見ると、あの子、鈴木狙いなのかな?

他の女子も、何人か鈴木に声をかけたそうにしていたが、二人で盛り上がっている中には入りずらそうだった。

相変わらず、友人はもてるようで何よりだ。

彼は、普段は冗談が過ぎて、へらへらして見えるけど、黙っていればとてもかっこいいし、根は真面目な奴なのだ。

これがいわゆる、黙っていればなんとやら、というのか。

いや、違うか。そういう諺は、もっと、顔だけよくて他は心底馬鹿野郎みたいな奴に使うべきで…ああ、そうそう。丁度向こう側の柱の影に立ってる、あんな感じの。

…ん?ちょっとまって。あれって…。

「…うわー!」それまで後列に混じっていた身体を前に滑り込ませ、先頭に躍り出た。

楽しそうに喋っていた鈴木の肩をがつん!と掴めば、斜めに傾いた鈴木が、驚き様に振り返った。

「ど、どうしたの?サノト」

「なあ、鈴木。今から行く場所って、どこ?」

「え?此処から真っ直ぐ行った場所にあるカラオケだけど。…あ、ほら、前に一緒に行った事あるだろ?って、おーい!サノトー!」

「ごめん!ちょっと野暮用思い出した!直ぐに戻るから先に行っててくれー!」

ありったけの声量で叫ぶと、踵を返して明後日の方へと走った。走り出したサノトの背後で、影が不自然に伸びる。

まるで吸い寄せられるように伸びた影は、走っているにも関わらず、サノトにへばりついて離れなかった。

「…チッ!」舌打ち程度では吹き飛ばせない不安が、サノトの胸にぞわりと過った。






がむしゃらに通りを抜けた後、適当な場所で足を止めた。

身を潜め、迫りくる影を待ち構えていると、数分もしない内に―――ガツン!と、相手が顔にぶつかってきた。

予想外の打撃に、鼻を押さえて悶絶する。

「いってぇな!この野郎!」罵倒すると、影―――追いかけてきたアゲリハが、涼し気な顔で見下ろしてきた。

「なんで、お前、こんな所に居るんだよ!」

「追いかけてきた!」

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