「なにしけたツラしてるんだよ」思わず、自分の顔を両手でまさぐった。
「…俺の顔、しけってる?」
「うん。なんていうか、育児に疲れた母親みたいな顔してる」
友人の的確な例えに、また思わず肩が震えた。
「はー…」今朝の事を思い出して、つい、溜息が零れてしまう。
「どうしたサノト、寝不足か?」溜息の所在を、鈴木が心配そうに尋ねてきた。
「違うんだよ。えっと、なんていうのかな。そうそう、昨日言ってたペットがさ…」
「ペット?ああ、昨日言ってたやつ?そのペットがどうかしたのか?」
「うん。なんかね、今日、俺が出かけようとした時、妙に纏わりついて来たんだよ。自分も行くって駄々捏ねて、きかなくて…。それを振り切ってくるのに、すっごく疲れたんだ」
「なんだ、随分懐かれてるんだな?」
可愛いじゃないかと、鈴木が穏やかに笑う。サノトも一緒に笑おうとしたが、ひきつってしまった。
…仕方の無い事だが、ペットの正体を知っているサノトと知らない鈴木の温度差が酷かった。まるで矛盾のようだ。
「そういえばさ、ペットって、なんの動物?犬?それとも猫?」
「………………カラス、かな」
「そっかー、カラスかー。………カラス?」
どれに例えて良いか分からず、見たままを喋ると、鈴木が訝し気な声を上げた。
それが疑問になる前に、鈴木の鞄からタイミング良く着信音が鳴り響く。
きょろきょろ首を振り始めた友人が、やがて、何処かに向かって片手を上げる。
同じ方向を向くと、いつの間にか、数人の女子がこちらに近づいて来ていた。
女子の一人が鈴木の元へ駆け寄ると「久しぶりだね!待った?」親しげに腕を叩いて話始めた。どうやら、鈴木の友人らしい。
「待った待った!すげー待った!くたびれちゃったから、責任取ってくれない?」
「うそー!まだ時間まで5分あるしー!」
「分かってるなら聞くなよー。文句言いたくなっちゃうだろー?」
「もー!相変わらずふざけてるんだから!」
「ふざけてるってなんだよ!ひっでーな!」
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