「ちょっと、迷ってて」

「え?なにが?あ、使い方が分からない物でもあった?」

「そうじゃない。いや、なんというか、こういう返し方をしてくるのも、その…好ましいというのか。説明がしづらい。説明がし辛いというのは久しぶりの感覚だ。うーん、じゃあやっぱり、そうなのかな。…顔は全く好みじゃないんだけどなー」

「んー?」アゲリハの形にならない話とやらを、首を傾げて付き合っていたサノトだったが、その内、相手にするりと頬を撫でられた。

思いもしなかった行動に吃驚するサノトに、アゲリハが「すまない。やっぱりついてた」指先でぐいぐい撫でて、食べこぼしを除いてくれた。

ありがとう、と、礼を言っても、アゲリハは未だにサノトの顔を眺めていた。

穴が空きそうな程見つめてくるので、段々と、言葉を出す隙間が無くなっていった。

なんだか、変な空気だな。そう思った瞬間、腰の辺りで軽快な音が鳴り響いた。誰かの着信が入ったようだ。

アゲリハから視線を逸らすと、サノトは床を探って音の所在を確認した。

漸く掴んで、点灯した画面に表示されたのは、鈴木兼。友人のフルネームだった。

アゲリハに「ちょっとごめん」と断り席を立つと、早速通話を取る。

『さーのと!こんばんわー!』夜でもテンションの高い友人の声が、きいんと耳奥まで響いた。

「鈴木?どうかしたのか?」

『いやね?さっき、元気そうなサノトを見てたら、誘っても良いかなー?って、思い立って電話したんだよ。急な話だから直ぐに連絡しておきたくって』

「え?なんの話?」

『うん。あのね、明日なんだけど、遊びの集まり…ま、有体にいうと、合コンだな。来ないか?急にひとり、数が足りなくなっちゃったから、来てくれると有難いんだけど、どう?』

「ええ…合コンか…俺、そういうの行った事が無いんだけど」

『大丈夫だいじょうぶ!賑やかしに来てほしいだけだし、全員同い年だから気構えなくていーよ!どっちかっていうと、サノトの気晴らしになるかなー?って思って、誘ったんだ』

「ああ、そうなんだ…。じゃあ折角だし行ってみようかな。うん、明日…駅に十二時前ね。分かった。ありがとう。じゃあな、おやすみ」

通話を切り上げると、ポケットにソレをしまい込む。

部屋の中に戻ると、アゲリハが、空の食器を、上に、上に積み上げている所だった。

「あのさぁ」積み木をする子供のような顔をしていたアゲリハに頭上から話かける。

相手が「ん?」と、上目遣いに顔を上げた。

「明日って、お前どうするの?」

「まだ決めていないが?」

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