「ところでサノト、ひとつ尋ねたいんだが、お前と恋人は、お前が言って恋仲になったのか?それとも、恋人が言って恋仲になったのか?先に断言するが、後者だろう?」

「えっ。そうだけど」

「そうか。矢張りな。それじゃあ、お前の気が直ぐに無くなったのは必然だろう」

「え?…どういうこと?」

「真剣だっただけだろう?」

「なにが?」

「お前は真面目そうだから、相手を得る事に対して、気がない状態からでもきちんと責任を感じたんだ。だから、真剣だった。けれど、それはお前がずっと気付かなかっただけで、愛でも恋でも無かった。だから後を引かなくなった。それだけの話だ」

「な……」

アゲリハの解釈に唖然とした。

なんだよそれ。それじゃあ、結局、俺は俺が思っている以上に、薄情な奴って事じゃないか。

サノトの言いたい事を、顔色だけで察したらしい相手が「気にするな、相手を得る事に責任を持つのは、よくあることだ」持ち上げてくれようとしたらしいが、そんなに持ち上がらなかった。

…アゲリハの言う通り、自分は、唯真剣だっただけなのだろか。

そんな筈はないと否定したかった。それなのに、否定の理由が、何処を探してもサノトの中から出てこなかった。そのことに、余計唖然とする。

ごくりと、息をひとくち飲み込むと、それまで拒んでいた何かまで、飲み込んでしまったような気がした。

「じゃあ俺、初恋もまだなんだな」自棄を混ぜながら、バカみたいだと呟けば、アゲリハが小さく笑った。

「気を落とすな。相手と離れたのなら、それはお前の運命では無かったのだ。それだけの話なんだ」

なんだよそれ。ドラマの見過ぎだろ。…でも、アゲリハが言うと何だか様になっていて、サノトも、少しだけ笑ってしまった。

「それだと、お前も初恋まだってことだよね?じゃあ、お互い頑張らないとな?運命の人が恋人になるようにさ」

冗談交じりに相手をからかうと、アゲリハが、きょとんと目を開いた後「…うん。そうだな」と苦笑した。

それから、食事の手を止めて、じっとサノトの顔をまじまじ見つめ始める。

「どうした?あ、俺の顔に食べこぼしがついてる?」

「ううん。ついてない」

「じゃあなんだよ。そんなに、ひとの顔をじっと見て」

「…うん。ものはついでだ。私の話も聞いてくれないかな、サノト」

「うん?いきなりなに?」

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