呆れと哀れを同時に起こされる、情けない息づかいだった。

「ほんとうは」唐突に相手が喋り始める。咄嗟に口を噤み、言葉を待った。

「分かっていたんだ」

「…なにが?」

「さっき、サノトが、私を心配して怒ってくれてるんだって」

「うん」途中からは怒り任せだったが、確かに、彼を咎めたのは彼の為を思ってのことだ。

…なんだ、ちゃんと分かってたんだ。

「でも、嫌いなものは嫌いなんだ。それを人から指摘されるのは、よほど頭にくることだ。怒られると、余計にそう思う。だから、だから私は……でも」

「うん」

「…お前の言うとおりだ。分かっているのに反論した私が悪い。ごめんなさい」

掠れた声で呟く様があまりにも哀れだった。耐えかねて、相手の顔を無理に上げる。

涙を留めた、美しい瞳と目が合った。

「俺も言い過ぎた。ごめん」

「サノト…」

「ほら、中に入ろうぜ?飯買ってきたんだ。食うだろ?」

笑って見せると、不意にアゲリハが顔をうつむかせた。

再びくっついた膝と額の隙間から、ぼそぼそと何かを呟く声が聞こえる。

耳を澄ませてそれを聞き取ると。

「サノト、やさしい」

嬉しそうな声が耳に滑り込んでくる。

その言葉が光栄かどうかは微妙なところだが、気分は数分前よりも、ずっとずっと悪くなかった。






袋の口を開けると、買ってきた材料を中から取り出す。

今日は何を作ろうか。一応客がいるから、一汁三菜で良いかな?充分だよな?

それじゃあ、ええと、塩鮭焼いて、油揚げと野菜で煮びたしして、なますも作るか。

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