といっても、可愛い犬や猫みたいに癒されるか、もしくは役に立つかと言われれば、そのどちらにも当てはまらないのだけれど。
しかも、見た目だけはご立派なくせに、中身は問題児だから、まったくもって厄介なペットだ。
「餌も手作りで作ってさー。ペットの洋服も買いに行ったりして」
「へー、満喫してるね?じゃあ、餌も含めてその量なんだ?」
「うん。そうそう」
「そっか。…やけ食いじゃないならいいよ。ていうか、サノトが思ってたよりも落ち込んでなくてほっとした。俺、あの後結構心配しててさ。お前、結局電話寄越さなかっただろ?」
「は?」途中から何の話をされているのか分からなくなって、素っ頓狂な声を上げていると、「まぁ、失恋なんて、気にしないのが一番だもんね」次の言葉で軌道修正が完了した。
そうだったそうだった。そういえばそうだった。…ええと、うん、はっきり言おう。
忘れてた!
あれー!
綺麗さっぱりって言葉がよく似合う程忘れてた!なんで?結構ショックだったよね?
どうして?…も、こうしても無いか。あの後直ぐ、悩む隙が無かった事を思い出す。ペットってすげーな。
漸く思い出した失恋に、漸く胸が痛み始める…かと思いきや、そんなでも無くなっている。
これもペット効果か。癒された訳じゃないけど、見えない所で役に立ってるじゃないか、アイツ。
やっと出来た功績を称えようにも、相手が居ないので音になることは無かった。
代わりに、近くで特売の憂き目に合っていたお菓子を山からひとつ掴むと、ひょいと籠の中に放り込んだ。
もしも帰ってきたら、お礼の代わりに与えてやろう。
礼が安すぎるのは、まぁ、迷惑賃込みってことで。
夕暮れに足並みを揃えて戻ってくると、いつの間にか、自室の前に大きな物が置かれていた。
よく目を懲らして見てみると、それが、図体のでかい男だという事に付く。どうやら、帰ってきたらしい。
哀愁漂うその姿にひとつため息を零してから、ひとあしで距離を詰めた。
「おい」呼び掛けて、近すぎない場所で膝を折ると、相手の高さに目線を合わせる。
「アゲリハ」名前で呼ぶと、相手の肩がびくりと震えた。まだ、顔は上がらない。
顔と膝のあいさから、ぐずぐずと、息と水の混じる音が聞こえた。
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