…帰ってくるかな。帰ってこない方が楽だけど、…帰ってくるかな。

静まりかえった部屋で、何をするでもなく、ぼんやりと昼をつぶした。

夕方にさしかかったあたりで「…腹減ったな」空腹と冷蔵庫の中身を思い出すと、気だるい身体を起こして出掛ける準備を始めた。

自転車に跨り、のんびり進むこと約二十分。目的地に到着すると、駐輪場に自転車を置き、籠を掴んで客の間をすり抜けた。

「…あれ?サーノト!かいものー?」予期せぬ場所から名前を呼ばれ、びくりと肩が鳴った。

振り返ると、何故か、そこには鈴木が立っていた。にこにこ笑って、こちらに手を振っている。

目と鼻の先までくると、もう一度「さーのと!」名前を呼ばれた。

「鈴木?どうしたんだよこんな所で」

「休練の部活帰りだよ。ちょっと飲み物買って行こうと思ってさ」

「ああ、なるほど」

「でも、こんな所で会うなんて奇遇だね?奇遇ついでに、俺とスーパーデートでも如何ですか?」

「スーパーデートって、響きが凄いな。変形合体しそう」

「ははは!言えてるなー!…って、あれ。お前やけに買い込むのな?」

「え?」一瞬、何のことか分からなかったが、鈴木の落とした視線に合わせることで、漸く「ああ」と頷いた。

「一人で食べきれる?大丈夫?もつの?」

「うん」帰ってくればね、とは言わなかった。

たくさん作っても帰ってこなかったら、笑って食べればいいや。

「そういえばさ、俺、ここ最近ペットの世話をしてたんだよ」なんとなく話を聞いて貰いたくなって、それらしい誤魔化しをつけて鈴木に近況を話す。

直ぐ、相手が興味津々に「ペット?なになに?なんの話?」身を乗り出してきてくれた。

「えーと、親戚から預かったんだけど、ペットの世話って大変だね。大変過ぎて、俺、散々切れそうになったよ。ていうか切れたよ」

「そうなんだ?俺、猫とか犬とか飼った事ないからわかんないや。あれ?でも、サノトのアパートって、ペットは大丈夫なんだっけ?」

「うん。最近大丈夫になったんだよ」

「へー、そうなんだ?」

嘘です。ペットは禁止です。本当は人間の男です。でも、とても面倒だったから、「世話をした」としか言いようが無かった。

だからやっぱり、ペットの例えが一番しっくりくる。

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