「………」
「俺の国ね、ぱっと見るよりも結構繊細なんだよ。本人が最低限気を付けてないと、いつ取り返しのつかない事になっても不思議じゃないんだ。なぁ、俺の言ってること、わかるよ」
「うるさい」
相手が大人しかったので、てっきり聞き入れてくれているのかと思いきや、サノトと同じくらい冷静な声で、アゲリハが声を遮ってきた。
冷たい表情でもう一言「冗談ではないな」と吐き捨てられる。
「そんな礼儀が通されるのなら、私は礼儀など意味を持たなくとも良いと思うぞ?」
「…なんだよそれ」
「お前の言い分など、馬鹿らしいにも程があると言っているのだ。その不細工な顔立ちに似合った、お仕着せな理屈は止めて貰おうか?」
―――ぶちん!と、何かが真っ二つに裂ける音がした。
しかも、面と向かって「不細工」とか言われた所為で、怒りが尋常では無い早さで加速していく。
「人が下手に出てるからといって…」ぶつぶつ、呟きながら、そっぽを向いていたアゲリハの胸ぐらを掴む。
掴まれたアゲリハは、漸く顔の向きをサノトに戻した――途端、がん!と、サノトに頭突きを食らわされた。
世にも美しい顔が、徐々に、赤く腫れ上がっていく。
顔面を強打されたアゲリハが、地面に蹲って声にならない悲鳴を上げる。いい気味だと思った。
「良い大人の言うことか!」相手を見下して、屁理屈に対し思い切り叫んだ。
「俺は、お前に触れとか、克服しろとか言ってるんじゃねぇだろ!ただ、ひとへの配慮に少しは気を付けろって言ってるだけだ!それを、人を馬鹿にして否定するとか、お前は何様のつもりだ!恥を知れ!そんな事も分からない、お前の方が馬鹿らしいわ!」
「………!」
叫んで乱れた呼吸が落ち着いた頃、相手から手を離した。
アゲリハは、暫くじっと黙り込んでいたが、やがてサノトから離れると、苦い顔を浮かべ、ふらりと立ち去って行ってしまった。
「…おい、アゲリハ?」思わず呼びかけたが、相手が立ち止まる事はなかった。
追いかけた方が良いかどうか、迷っている内に、彼の姿は遠く離れ、消えて無くなっていってしまった。
…ちょっと言い過ぎたかな。いやでも、俺は間違っていない。あのときの事は、アイツが全部悪い。
でも、…言い過ぎたかな。結局、感情に流されて怒鳴りつけたようなものだし。
部屋に戻ってみたけど、アイツは戻ってきていないみたいだ。
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