試着室から飛び出たアゲリハが、期待の眼差しで「似合うか?」サノトに訪ねてきた。

「似合うよ。でも少し小さいな、他のやつ探すか」おざなりに答えると、アゲリハが「はーい」と言って嬉しそうに頷いた。

また数分待つ事になるのだろう。その間に、別の服を見ておこうかと、背後を振り返って。

「あの」

そこに女の子(名前を胸に掲げているので、多分店員だろう)が立っていた事に気づき「うっわ!」滅茶苦茶驚いた。

相手もサノトの叫びに驚いたらしく、目を丸くさせていたが、やがて「お客様、試着室をご利用の場合は、ご面倒ですがスタッフにお声かけ下さい」注意を促された。

よくみると、試着室の隣に、その類の注意書きが書かれていた事に気づく。

「すみません!」平謝りすると、今度は店員の方に謝られてしまった。

別に怒ってはいないが、仕事の上で注意をしただけなのだろう。ぺこぺこと、二人で謝り倒す形になる。

その時、アゲリハが試着室の仕切りを開けた。

しゃっ!と、小気味よい音を立てて出てきたアゲリハに、店員が振り返った瞬間息を呑んだ。

サノトに声を掛けた時とは違い、瞬時に頬を染めた彼女を見て、純粋に、すげーなと感心してしまった。

あの服を脱いだ途端これか。流石、美人が特別なら初見の待遇も特別だな。

暫く頬を染めて茫然としていた店員だったが、意を決して「お、お決まりですか?」とアゲリハに話かけた。

試着室の事を注意する役目など、とうの昔に忘れてしまったのだろう。顔が良いって得だなー。

それはさておき、店員が来てくれたのは幸いだった。

いちから服を選び直すよりも、アゲリハのサイズを見立てて服を探して貰った方が、用事が早く済むだろう。

「すみません、ちょっと良いですか?」今度はサノトから店員に声をかけ、事情を説明すると、彼女は愛想よく笑って「大丈夫です」早速服を取りに行ってくれた。

「よかったな、アゲリ――」振り返った時、サノトはぎょっと目を剥いた。何故か、アゲリハが、眉間に皺を寄せていたからだ。

どうしたんだよ。そう尋ねる前に、戻ってきた店員が、「お待たせしました、こちらなど如何でしょう?」事務的な動作でアゲリハに触れようとした途端。

「触るな」

―――バチン!と、その手が叩き落とされる。

彼女が持っていた服が床に落ちて、ついでに、沈黙もどんと落ちた。

…え?今なにが起こったの?

「私は女が嫌いなんだ。近寄るな、ましてや触るな」

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