呆れるサノトに反し、アゲリハは大層ご機嫌そうだった。要するに、趣味に沿った服を自分なりに選んできたって事だろう。
それにしたって、なんでこんな派手な服をわざわざ掴んでくるかな。大体これ、女の服だよ。
「サノト、私はこれが良い」
「ダメ」
「これが」
「駄目だ!お前に入らないだろこれ!」
アゲリハから服を奪って近くの棚に放り投げると、今度は相手の胸倉を掴んでその場から離れた。
「俺が選んでやるから、お前は近くでぼっと立ってろ」親切心を投げかけるも「えー、折角だし選びたい」大層ご不満そうな返しをされる。
「お前に選ばせると選択が突飛過ぎるんだよ!俺がさっさと選んでやるから、大人しくしてろ」
「えー」
「えーとか煩い。頼むから早く選ばせてくれ…」
なにも、サノトの気が短いだけの話ではない。どちらかと言えば、彼の、今の格好がとても忍びないのだ。
何せ、凌ぎで選んだ服――サノトの手持ちの中で、アゲリハが着られるまともな服が、伸縮率の良いジャージしか無かったのだ。
学生ならまだしも、美麗な外国人が観光に着る服ではけして無い。
それを着ている本人は、あれだけこだわり(と言っていいのか?)の私服を着ていたにも関わらず、「これも悪くない!」と言ってジャージを着ていたので、今の格好に羞恥は感じていないようだが。
「折角別の国に来たのだから、自分で選んでみたかったなぁ」
「そういうのは、人に迷惑をかけない状態で言おうね?」
「…それもそうだな。それじゃ、宜しくお願いします」
「へいへい」
くだらないやり取りをしている途中、偶然良さげな服を見つけた。柄も形も無難だし、ひとを選ばない感じが良い。
これなら、サノトが着てもアゲリハが着ても問題無いだろう。
早速、持っていた籠にそれを放り込むと、籠をアゲリハに持たせ、「此処で着替えるんだぞ、分からない事があれば言えよ」アゲリハごと試着室に突っ込んだ。
「大丈夫だ!ウチの国と似てる!」そう言って、アゲリハが仕切りの布を閉じた。
暫くすると、閉じた箱の中から布切れの音が漏れてくる。それをのんびり聞きながら、待つ事数分。
「サノト!どうだ?」
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