適当に作った朝食を片づけた後「サノト、私は今日なにをしたら良いと思う?」早速やる気を取り戻したアゲリハにそう尋ねられた。首を傾げた後「…着替え?」無難に答える。
しかし、当の本人は「きがえ?」と不思議そうに疑問符を飛ばしていた。ええと、どうやって説明しようかな。
「えーと、えーと。あのな、お前の服って、普段着なのかもしれないけど、えーと、俺の国じゃちょっと目立ち過ぎるんだ。目立ちすぎる相手に声をかけるのは、ちょっと憚れる国でもあるから、えーと…あ、そうそう、文化を合わせる為にも、俺の国の服に着替えよう」
「ああ、なるほど。承知した。それではサノト、ものは相談なんだが、お前の服を何か貸してはくれないか?」
「ああ、別に良いよ」
此処まで世話をさせられたのだ。今更、服の一着や二着、貸して与えるくらいは訳が無いなと、頷きかけたその時。不意に動きを止めた首が、横に倒れた。
「どうしたサノト?」不安げに尋ねられるが、首は一向に元に戻らなかった。
代わりに「…無理じゃね?」返事の代わりに否定を零す。
アゲリハが、おろおろ動揺するのが、傾いた視界によく見えた。
「な、なぜだ?なるべく綺麗に返すように気を付けるぞ?駄目か?」
「いや、そうじゃなくてさー…。お前、身長っていくつ?」
「え?百八十の後ろくらいだが?」
「だよね。俺、百七十の前半くらいなんだよ、ね?」
サノトの言いたい事を察したアゲリハが、ハッとしてサノトを見た。
ついでに、上から下、横幅も見てから「…うーん」何度も瞬きをする。
それから、なんとも言えない沈黙が部屋の真ん中に落ちて沈んだ。
話し合った結果「いっそ買った方が早い」という結論に至った。勿論サノトの金で。
なんでそこまで、と思わないでも無かったが、他の案を探す方が面倒だった。
「サノト!すごいな!向こうにあるのはなんだ!」
家から近くて値段もそこそこの店に入った瞬間、アゲリハがはしゃいだ声を上げ、店の奥へと消えて行った。
「おいこら!戻って来い!」お前は幼児と同等か!買って帰るだけだと高を括っていたが、これでは先が思いやられてしまう。
とっとと買って帰ってしまおうと、再度決意を新たにして、戻ってこないアゲリハに「いい加減戻って来い!」と一喝する。
すると、間もなくアゲリハがひょっこり戻ってきた。その手に何かが掴まれているのに気付く。
アゲリハが手にしかと掴んだそれは、装飾の激しい色鮮やかな服だった。…なんだこれ。
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