寒さからではないようだ。そこで漸く、ぴんと思い立った。
「おい、アゲリハ、まさかお前、珈琲苦手なの?」
「………」
漸く、ぴくりと肩を揺らしたアゲリハが、サノトに向かって、こくりと、小さく頷くのを見た。
へぇ。この顔で珈琲苦手なんだ。なんか、もごもご「砂糖とミルクがあれば飲める」とか言ってるけど。
まぁ砂糖もミルクもあるけど。あるけど…黒は飲めないんだ。
へぇ。こんな見た目してるのに、女の子みたいに、黒が飲めないんだ。…へー!
思わぬギャップに、つい、「ぶっは!」と吹き出してしまう。
サノトの嘲り混じった息を受けた途端、相手が顔を真っ赤に染め上げた。
「人の好みは人それぞれだろう!」なんて説明してるけど、全然弁解出来てないから!
「うける!お前の見た目で珈琲が黒で飲めないとかうける!」
なんなの?そういう冗談なの?捨て身のギャグなの?はらいてー!ひー!
かなり面白かったので腹が痙攣するまで笑い転げた。それはもう、アゲリハが拗ねて蹲るまで笑った。
一頻り笑った後「ごめんごめ…ぶははは!ひー!…おっとごめん」一応謝ってから、直ぐ、キッチンに戻って砂糖とミルクを取り出しアゲリハにわた…そうとしたが、まだ拗ねていたので、適当に入れてやった。
「これなら飲めるか?」と言って差し出すと、漸く振り返ったアゲリハが、「…ああ」そっけない返事をしてから珈琲を受け取った。
受け取っても、まだまだ唇を尖らせていたアゲリハだったが、砂糖とミルクを入れた珈琲を一口飲み込んだ瞬間「あ、美味しいな」そう言って、飴を貰った子供のような顔で笑った。
これだけアホな所を見せられても、美人は笑顔が様になって、羨ましい限りだ。なんて考えていた最中。ぐぅ、と、相手から奇妙な音が鳴り響いた。
妙だけれど、覚えのあるその音は、サノトが所在を確認する前に。
「サノト、お腹空いた、次はごはん」
さも当然そうに催促してくるアゲリハによって簡単に自白された。
…こいつ、顔が良いからって、今までなにかしら許されてきたんじゃないか?
そう思える程の、清々しい図々しさだった。
大概だなこいつ。そう思えど、呆れ過ぎて今度は怒りも湧いてこなかった。
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