「つまり?お前はどっか別の国の人で、運命の人とやらを探す為に国を飛び出して此処まで来た。って事で良いですか?」
「はい、その通りです」
一発殴ってからやけに大人しくなったアゲリハが、めそめそ泣きながら頷いた。
その情けない格好を見ていると、少しやり過ぎ(顔面を何度も強打した)たかなという気持ちに駆られる。
とりあえず、わざとらしい咳払いをすると、席を立って部屋の奥に入った。
新しいタオルを掴んで水に濡らし、絞ってから、元来た道を戻ると、それをアゲリハに再び放り投げた。
「みっともないから、それで顔ふけよ」と言えば、先ほどまでの泣きべそは何処にいったのか、相手が花咲く笑顔を浮かべた。
ごしごし、自分の顔を拭くアゲリハの対面に座り直し、「でもさ、それ難しいと思うよ」横に逸れていた話をたぐり寄せる。
「なにがだ?」
「この国で運命の相手…の、男を捜すことだよ」
アゲリハが、すん、と鼻をならして「そのようだな」と頷く。
どうやら、自分の置かれている現状は理解しているようだ。
格好はさておき、まだ、彼の望みが女性であれば充分希望はありそうなのだが、目的は男限定と断言されている。
撃墜率は半分どころか、十%を満たすかどうかも分からない。無理とは言わないが、かなり難しい事だろう。
「サノト、私はどうしたら良いと思う?」
「どうしたら良いとか聞かれてもな…いっそ出直したら?俺が思うに、この国にこのまま留まっても、難しいまま何も変わらないと思うよ?」
一度出直してから、今度は、こういった事情に理解のある国をきちんと調べて出直した方が、結構利口な話だと思う。
しかし、アゲリハがうっと言葉を詰まらせた。次いで、口をもごもご籠らせる。
「そうだな。それは良い案だ。しかしそれも難しいな」何が難しいんだろう?黙して次の言葉を待つ。
「話すと長くなるから、色々と割愛するんだが…簡単に言うとな、出直すと面倒なんだ」
「なんで?」
「…動力がなぁ」
動力?あ、燃料のことか。外国から旅行すると燃油代とか大金とか嵩むらしいから、金銭的な話かな。
自分は外国に行った事が無いからその手の事情に明るくないけど、金が無いというのなら確かに、出直すのは面倒そうだ。
でも、偉い人?らしいのに、けちくさい話だ。
心の中で笑っていると、前触れなくアゲリハの顔が迫ってきた。
近距離で「だからサノト!」と叫ばれ、耳がきぃんとする。
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