「なんだ?サノト、私に見惚れたか?」明け透けに言って来るので、呆気にとられてしまう。
いや、まあ、その通りなんだけど。でもさ、本人の口からあっけらかんと出てくるのは、どうなの?
「サノト?」
「…調子に乗るな。誰が男になんか見惚れるか。顔だけ良いのも大概にしろ」
認めてやるのがなんとなく癪で、軽い嘘を吐くと、相手が神妙な顔で黙り込んだ。
「男なんか?」サノトの言った言葉を何度も反復させてから、やがて。
「…サノト、まさかとは思うが、この国は男を恋愛観の対象としては見ないのか?」
「…え、なに?そんなの当たり前だろ?」咄嗟に反応し切れず、変な声が出た。
「ああ、そうなのか。…いやはや。折角遠いところまで来たのに、そういう事か。そういう事もあるのか。面倒な事になったな…ああでも、男に声を掛けても無視をされ続けた訳が漸く分かったな」
いや。それはお前の格好が原因では…と、言いかけて止める。
それよりも先に、気になる事が有り過ぎた。
何だ?こいつ。さっきから、恋がどうとか、男がどうとか。
「なぁ、お前さっきから何言ってるの?」疑問を音にした途端、間が空いた。
男は、サノトの顔をじっと見つめてから、やがて困った風に眉を下げた。
「ああ、そうだな。ある程度の常識違いは覚悟していたんだが。…何処から話そうか、むしろ、何を話して良いのやら…。ああ、そういえば、お前の名を尋ねたのに、私が名乗るのを忘れていたな、失礼した。サノト、私はアゲリハと言う」
はいはい。アゲリハさんね。変わった名前だな。やっぱり外国人か。
「私はな、トーイガノーツという国の、トーイガの方から来たんだ。名目は…まぁ、君主という奴かな」
はいはい。トーイガノーツっていう国の、君主ね。…ん?
途中で、頬に充てていた手がずりおちた。
今なんて言った?とーいが?くんしゅ?要するに、そんな国があって、そんなお仕事があるって事なんだろうけど。
…とーいがって何処?
「…わ、悪い」理解の落ちた頭が処理した言葉は、いやに掠れていた。
「俺、地理は苦手なんだ。えっと、トーイガってどこ?あと、くんしゅって、君主のこと?じゃあ、お前偉い人なの?」
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