しきりに泣き続ける男に暫くは付き合ってやったが、何時まで経っても泣き止まないのでその内痺れを切らし、結局、大変厄介な荷物として部屋に持ち帰ってしまった。

こんな変質者以外なにものでも無い人物を、成り行きとは言え部屋に上げるなど我ながら凄い度胸だが、…まぁ、連れてきてしまった以上は自己責任だ。

「サノト!ありがとう!本当にありがとぅ…!」机の前で、教えた名前を早速泣き叫びながら、変質者(言葉が随分流暢だけど、外国人か?)は、ついでに買ってきたサノトのご飯、もとい、パンにかぶりついていた。

その内、相手の口元がぱんぱんになるまで膨れ上がった。リスか。てかどうやって喋ってんだ。器用ってレベルじゃねーぞ。

暫くすると、腹を満たして満足したのか、向こうからぷはぁと、気持ちの良さそうな声が聞こえた。

「…ほら」機嫌のよくなった頃合いに、サノトは用意しておいたタオルを男に投げて寄越した。

タオルを放り投げられた男は、暫く呆けた顔をしていたが、「顔、洗って来いよ」至極簡単な指示を聞くなり意図を掴んだらしく、こくこく嬉しそうに頷いた。

早速洗面所に引っ込むと、水の滴る音を豪快に立て、数分後、「さっぱりだ!」元気よく戻ってきた。

あーそうかよ。と呟き、戻ってきた男に振り返って…ぎょっと目を剥く。

「サノト、どうしたんだ?」

「え?い、いや。どうしたもこうしたも…」

どうしてこうなった。

急変した事態に、サノトは驚きを隠せず狼狽えた。

なんてことだ。唖然と呟き、再び男の顔に目を向ける。

男の顔は、先ほどまで涙と鼻水に塗れてぐしゃぐしゃだった筈なのに、さっぱりした途端、とんだ有様に成り果てていた。

…なんだ、この美人は!

切れ長の目に長い睫。綺麗に通った鼻筋、白い肌。それらの配置は何処もかしこも完璧で、文句のつけようが無かった。

すっげぇ。こんなに綺麗な顔、初めて見た。

何故、いまの今までこれに気付かなかったのだろう。顔を伺う機会なんて、たくさんあっただろうに。

腑に落ちなかったが、もう一度男の姿を見た時、―――ぱちん!と、答えを弾き出した。

ああそうか。こんな美人がカラスみたいな服を着て、情けない姿で号泣しているなどと、露にも思わなかったからだ。先入観って凄い。

…ていうか、こいつも馬鹿だよなぁ。

こんな格好していなければ。いや、この顔を、もっとマシな状態で晒していれば。俺でなくとも、もっと綺麗な女子やお姉さんに拾って貰えたかもしれないのに。

そうすれば、今頃、コンビニ飯を泣きながらかぶりつくんじゃなくて、パスタとかハンバーグとか、ちやほやメニューを口に…想像したらムカついてきた。

綺麗な顔を暫く食い入るように見つめていると、その内男が不思議そうに首を傾げて、から、突然、ぽん!と手を打ち、すっと顔を近づけてきた。

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