ていうか、まだこの辺に居たの?なにしてるのこの人?
…まぁ、何処にいてもいなくても、何してても、本人の勝手だから、どうでも良いんだけど。
もやが晴れると、途端、興味もすっと晴れた。
これ以上立ち尽くす用事も無いので、サノトは自分の用を済ませる為入り口に向かう。が。
…長く見つめていた所為だろうか。人影の隙間から漏れる、空気を震わせるような呻き声に気づいてしまった。
思わず足を止めて、人影に振り返ってしまう。
…あれ?まさか泣いてる?
いや、確かに体育座りなんて、泣くには丁度良い格好だけど。泣いてるの?ほんとに?あんな派手な格好で泣いてるの?
…いや別に、派手な格好と泣くことは、関係無いけど。
そもそも関係無いって言うのなら、自分がこんな事を考えている事自体関係ないし、義理もない。
彼は赤の他人どころか、赤の変質者だ。けど、…泣きたい時って、悲しい時だよな。
変質者でも悲しい時は泣くんだな。変質者ってだけで前向きそうなのにな。
そんな事を考えている内に、変質者がとても可哀想に見えてきた。自分が、先刻のことで、悲しんでいたからかもしれない。
数分、うろうろと、足先だけを迷わせてから「…なぁ、大丈夫か?」思わずかけてしまった言葉の先で、変質者が顔を上げるのを見る。そして、思い切り引いてしまった。
変質者―――カラスのような男は、サノトが想像していた以上に、悲惨な泣き顔を披露してくれたのだ。
色んな意味で汗をかきつつ、サノトはもう一度「大丈夫か?」と言って、持っていないハンカチの代わりに、着ていた上着を渡してやった。
すると、男は目を丸く開けた後、かぶりつくようにソレを受け取ってから、今度は誰の耳にも良く聞こえる声で、わんわんと泣きだした。
「よ、よかった…!」
泣き声を少し落として呟いた男の言葉に、ん?と首を傾げる。
「なにが良かったんだよ…」
「だ、だって、誰に話かけても、誰も、相手にしてくれないし、暗くなってくるし、でもやっぱり誰も相手にしてくれないし…。明るい場所に来て、や、やっと、誰かが、話しかけてくれて…うぅう、良かった」
…カラスっていうか、蛾みてぇだな。派手だし。余計に。
思わず突っ込みそうになったが、相手があまりにも盛大に泣き喚くので、一応、そっとしておいてやることにした。
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