「…うぅー、機械も俺も空気が読めないー…」
文句を募らせても、結局空腹には勝てなかった。
もう一度腹が鳴ったのを皮切りに、サノトはその場から立ち上がると、鞄を拾って再び扉を開いた。
コンビニでパンでも買って、とっとと平らげてしまおう。
*
外はもう随分と暗くなっていて、春を忘れるような冷たい空気を辺りに吹き散らかしていた。
暗色を帯びた空を眺めながら、とんとんと階段を降りる。
早速自転車に跨りペダルに力を入れた。自転車を発進させてから数分後、住宅街を抜けた先にあるコンビニの、煌々と光るライトを見つける。
適当な場所で降りると、どの辺りに停めておこうかと駐車場を彷徨い―――ふと、目が止まった。
それは人影だった。コンビニの前で身体を丸め、膝に顔を埋めた、体育座りをした人の影。
それは派手な姿をしていた。それ以上どう形容して良いか分からない程、とても派手だった。強いていうなら、真っ赤なカラスみたいだ。
それだけでも酷い存在感なのに、体育座りなんてしている所為で余計に目立って見える。
…なんだろう?これ。
物珍しさに反応したのはサノトだけでは無かったらしい。
周りにぽつぽつ歩いていた人波も、サノトと同じような目線でソレを見つめていた。
しかし、直ぐに興味を無くすのか、それとも関わりたく無いと踏むのか、みな直ぐに散って行ってしまった。
そんな中、サノトだけが一人、首を傾げながらその場に立ち尽くしていた。
何故か、その人影に見覚えがあったのだ。
自分がこのような珍種と縁を結んだことは今まで微塵たりとも無かった。しかし、どうにも見覚えがある。
…その時、記憶よりも、もっと浅い所にある「当たり」に気づいて、目を見開く。
「………あっ!」
そうだ、あれだ!ついさっき見た奴だ!駅のホームで見掛けたあの変質者だ!ああスッキリした!
え、なに?あそこからコンビニまで移動してきたの?そりゃ、此処、駅から近いコンビニだけどさ。
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