「そ、それは」

「口答えするな!傷心中ならしおらしく首だけ縦に振ってろ!…こういう時はな、自分を一番優先して良いんだからよ」

「…鈴木」

非難の言葉に隠れたやさしさに気づいて、思わずぐっと来てしまった。

「ありがとう」

咄嗟に出た言葉に返答は無かったけれど、鈴木が照れたように眉を下げたので、恐らく気持ちは伝わったのだろう。

暫く、塩辛い空気を共有していたが、「よしよし!」鈴木が唐突に声を上げたので、辛味が一気に払拭された。

続いて「俺が事後処理でもしてやるよ!」主語の無い提案をされる。理解を促す為、目を何度も開け締めした。

「なんだよ、事後処理って」

「今から何でも、俺が付き合ってやるって意味だよ!ひとの貴重な時間潰してやるんだから、有意義に使えよー?で、どうする?ファミレス入って今までの愚痴ぜーんぶ吐くか?それとも、カラオケで騒ぐ?なんなら、俺の美声で、サノト君の傷心に失恋の歌をささげてやるよ」

「えぐる気まんまんじゃねぇか!」

「荒療治だよ荒療治!失恋には失恋!傷口には塩塗って消毒!という訳で、今から行っちゃう?なんなら奢っちゃう?」

ほれほれ。と手招く鈴木の巧妙な寛大さに、心がぐらっと、色んな方向に傾いたが、暫くしてから首を振った。縦ではなく横に。

「…いや、ありがと。今日はいいや」

「え?良いの?」

「うん。…ちょっと、暫くはひとりで居たいかも」

鈴木に向けたというよりは、自分に向けて呟くと、鈴木がすっと、腑に落ちない顔を浮かべた。

しかし、何秒か間を空けた後、頭をかきながら「分かった」と頷いてくれる。

「あーあ、せっかく熱唱してやろうと思ったのになー」そう言って、サノトの肩を叩く様子は、まだまだ、彼の気遣いに満ちていた。

良い友達を持ったよなぁ俺。何回も思っている事を、今でもしみじみと思う。

「悪いな、また付き合ってよ」

「良いよー?また今度ね?…ま、愚痴のひとつでも言いたくなったら電話でもして来いよ。待っててやるからさ」

「うん、ありがと」

友人と途切れる事なく会話を続けたお蔭か、さっきまでどんより曇っていた口が今では随分軽くなっていた。

そのことに感謝しつつ、お互い軽快に笑ってその場を離れた。

改札口を抜けると、鈴木と手を振って別れ、サノトは自分の帰路につく。

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