…なんて静かで、見えにくい別れなんだ。というか、これは別れって言って良いものか。

これがまだ、対面していたのなら話は別なのに。まだドラマのある話だったのに、お互い顔すら見なかったとはどういう事だ。

こんな事があっても良いのか。…いや、有り得るから、こんな事になっているのか。

気分が真っ逆様に落ち込んできた。初めての彼女だった事もあって、色々な所が痛んで仕様が無い。

一応「また連絡するから」と、なけなしの希望をそっと書いて彼女に連絡を送ってみるが、彼女はそれに気付かず、ホームの向こう側で、男と楽しそうに去って行ってしまった。

笑いながら消えて行く彼女を眺めながら、…自分の行動が空しくて空しくて、視線が地面に落ちる。

「明日からの三連休、バイト入れずに空けておいたのにな」それは彼女も了承していた筈なのに、とんだ場所で穴が空いてしまった。

予想に反し、サノトの愚痴に反応したのは友人だった。

「あんなに忙しかったのに休みが取れたのか?」と尋ねられ、思わず苦笑してしまう。

「いや、今までバイトの休みが無かったの、俺が自主的にシフト入れてたからだよ」

「は?」

「彼女さ、二人の時間とかイベントとか凄い大事にする子だったから。そうなると、何かにつけて記念日も多くてさ。バイトしてたのは、その都度送るプレゼントとか、デート代の為だったっていうか…彼女に合わせてたら、金も時間も無かったってだけの話だよ」

でも、そんな苦労も愛情も、こんな連絡ひとつで泡になってしまうのだな。

現実は残酷だという言葉の使い方を、今日初めて知った気がする。

「…春だなぁ」

唐突に、友人が脈絡のない言葉を吐いた。

意図が分からなくて「何が?」友人の言葉に訝し気な声を上げると「そのままだよ」友人が曖昧に応えた。

「ほら、春って、出会いの季節とも言うけど、別れの季節とも言うだろ?移り変わりやすくて気まぐれで、不安定な時期なんだよ。だから、お前の別れがこんなのも、季節柄さ」

「そんな言葉で片づけられてもな…」

「まぁまぁ!そんなに声を落とすなよ!節目とも言うだろ?春なんだし、仕方がないとでも思えば、少しは気が楽なんじゃないか?」

「…仕方がないって」

「違う違う!気が楽になるって方を意識しろよ!ほらほら、物を言わない桜だってあんなに明るいんだぞ?見てみろって!」

「はぁ…」

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