「そう言って頂けるとうれしいですねぇ。
具体的にはどこを気に入られました?」
「アゲリハの絵の色合いが好きだなって思いました」
我ながら小学生の作文みたいな感想が出た。が、それを聞いた本人と言えば、サノトの単純な感想に気を害した風もなく、「見る目がありますねぇ」むしろ嬉しそうだ。
「さすがアゲリハ様の恋人だ。彼に見る目があるから恋人の見る目もあるのでしょう」
「いやいや……」絵が好きだと言っただけでとんだ褒めようだ。嬉しくないわけじゃないけど。
「ところでサノト君。この後のご予定は?」。
「えっと、もう40分後くらいに、アゲリハが迎えに来てくれる事になってて……」
その時間を利用して、もう一周絵を見るつもりでいたのだが、「もしよろしければ残りの時間、私にいただけませんか?」相手に繰り上げを申し出られた。
「実は、過去の個展で発刊したアゲリハ様の画集があるんですよ。せっかくなのでぜひ、君に見て頂きたいと思いまして。
個展会場の裏に美味しい珈琲の店があるので、そちらでご一緒にどうですか?」
二周目の鑑賞よりもより魅力的な誘いをかけられ。「ぜひぜひ」二つ返事で頷く。
ガィラに連れられ個展会場を退出すると、少し歩いてから「珈琲が美味しい」という店に二人で入った。
窓際の席に座ると、すぐ、店員が注文を取りに来る。
サノトが何かを言う前に、「珈琲をふたつ」ガィラが飲み物を頼んでくれた。
店員が去ると、ガィラはカバンから大きな本を二冊、取り出した。
「こちらが画集ですよ、サノト君」
「ありがとうございます」差し出された本を受け取り、一冊は机に、もう一冊は開いて中身を確かめる。
そこには、見た事のないアゲリハの絵がたくさん掲載されていた。
楽しくてつい、ぱらぱらと眺め耽ってしまう。
「ニンジンだけ描いてある絵がありますね」
「ありますね。
あの人、普段は風景画や抽象画を好んで描くくせに、時々そういう静物画を描くんですよ」
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