「なんで??
ちょ、やめてよそういうの。なんか恥ずかしいだろ……」

「いいじゃないか。許してくれ」

「ええー……」

サノトとアゲリハが、題名についてあれこれ言い合っている内に。「恋人が題になる。結構なことですよサノト君」画商はさっさと絵を布に包み始めた。

そこにあった絵がすっかりしまわれてしまうと。「それでは。約束通りお借りいたします」ガィラは満足そうに微笑んでアゲリハに振り返った。

「返すのはいつでもいいぞ」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えましょうか」

目的を達したガィラは、アゲリハとサノトが「せっかくだから」と準備したもてなしを受けた後。次の用があるからと言って、時間が昼になる前にアゲリハの家を去って行った。

―――それから半月ほどあと。

かねてより「この日に個展へ行ってみようか」と話していた日に暦がたどり着くと、サノトとアゲリハは会場へと出かける準備を始めた。

「俺、絵画の個展って初めて行くんだけどさ、こういうのはドレスコードとかあるの?」

「特にないんだぞ。自分が恥ずかしくない恰好さえしていれば充分だ」

というわけで、それぞれが好きな服を選ぶと、アゲリハの車に乗って会場へと向かった。

ガィラの個展は、アゲリハが暮らしている市の一番大きな駅付近にあるらしく。走行中、アゲリハから「あの辺は料理のおいしい店がたくさんあるから、帰りはどこかに寄って行こう」と誘われ、サノトは三度頷いた。

車で走る事数十分。段々と建物の高さが高くなるにつれ、目に見える人の数が増えていった。

この辺りが市の繁栄地なのだろう。ということは、会場はもうすぐだ。

直進していた車が左折し、また走ること数分。

近くに見えた有料の駐車場に入ると、一番手前に車を停めた。

「個展会場ってこの辺りにあるの?」車を降りながら訪ねると。「そうだぞ。歩いて二分くらいかな」アゲリハも同じく、降りながら答えた。

アゲリハが先を歩き、後ろをついて歩くと、間もなく「ここだ」アゲリハが建物のひとつを指さした。

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